船の不思議 Q&A
(船や海の素朴な疑問に答えます)

われら海族 Home


Q1. 船はどうして浮くの? ↓こちら上級編
Q2. 船はどうして転ばないの? Q1. シーマンシップって?
Q3. 肩章って? Q2. 船長は船と運命を共にするのか?
Q4. 船乗り言葉って? Q3. 便宜地籍船(FOC)って?
Q5. 天測(Sight)って?. Q4. 帆船日本丸、海王丸/新造の可能性は?
Q6. 海中に転落したら? Q5. ソマリアの海賊退治に何故日本が参加?
Q7. 機関士って? Q6. えっ!?Great Captainはいない?
Q8. デッキ帽はどこへいった?
Q9. 港、港になんとやら
Q10 船上でペットは飼えるか?
Q11. サロン、メスロン
Q12. 船長は舵を持たない?
Q13. 乗船中に休日はあるの?
Q14. 船乗りの一番悲しいとき
Q15. 船幅32mが多い理由
Q16. 時刻改正と時差ボケ
Q17. 船酔いを克服する秘策は?
Q18. Captain's Cabin

 番外 管理人著書


Q1. 船はどうして浮くの?
 
何故、鉄でできた船が水に浮かぶのでしょう? 不思議ですね。それは一言でいえば、アルキメデスの原理です。

「物体は排除した液体の重量に等しい浮力を受ける」と、いうのがそれです。 ですから、同じ体積(容量)では、液体の重さが物体の重さにまさる場合に物体は浮くということになります。(体積が1リットルでは約1kgの浮力を得ます。この場合、物体の重さが1kgより重ければ沈み、軽ければ浮かぶのです) 船の中はガランドウなので、これにあてはまります。

しかし、船が荷物を積んで重くなれば、どんどん喫水は深くなります。したがって、「これ以上積んではその体積が水の重さに近くなります」というのが船のMIDSHIPに描かれている満載喫水線です。

 
 
Q2.船はどうして転ばないの?
船はUPRIGHT(垂直に立っている)の場合、船の中心線上に重心Gと浮心Bが存在し、安定してつりあっていますが、船が傾いた場合には、浮心Bは傾いた方向に移動します。それにより当然浮心の作用線(浮力)は重心の作用線(重力)より外に出て、船を元の安定した状態に戻そうします。この性質を復原力(STABILITY)と言います。

UPRIGHT時の浮力の作用線と、傾斜時の作用線の交点がメタセンタMで、そこから重心までの距離GMが復元性に大きな影響を及ぼします。GMの距離が長ければ復原力は強く、逆に短ければ復原力は弱くなります。例えば、デッキ上に荷物を多く積み続けますと(これをトップヘビーと言います)、重心は上がり、浮心は下がりますので、GMは短くなっていきます。そしてついにはGMがマイナスになります。こうなれば、船はいつ転んでもよい状態です。

実際には航海士が荷物の積付け計算を行ったり、横揺れ周期からGMを逆算したりして確認を行い、GMが約50cm以下(船によって多少異なる)にならないよう安全を図っています。

GMやSTABILITYに関しては、国家試験にも出題される問題で、突き詰めれば1冊の本になるほど複雑ですので、この辺にしときます。

 
 
Q3.肩章って?

船長や航海士、機関士など船舶職員といわれる人が肩章(略式装)をつけたり袖に金モール(制服)を巻いたりしています。言わば士官の証です。左図のように三航・機士は1本、二等航・機士は2本、一航・機士、通信長、船医、パーサーは3本、船・機長は4本となっていますが、甲板部が金筋だけなのに対し、機関部では金筋の下部に紫線、無線部は緑線、事務部は白線、船医は赤線を施して各部を識別します。

ところが外航船であっても、練習船や客船、艦船等を除いて、船医やパーサーは現在乗船していませんし、航海中はよっぽどのことがないかぎり肩章をつけないのが実情です。仲間内に見せてもしかたないですからね。荷役当直中には来船者にわかりやすいよう、肩章をつけることもありますが、それも絶対ではありません。肩章をつけるとチャラチャラしてるようで、なにか照れくさかったです。

しかしながら、日本が誇る「飛鳥」の士官は部屋を一歩でも出るならば、肩章どころか制服着用となっているそうですし、内航フェリーなどでは肩章をつけた士官をよく目にします。肩章をつけるつけないは、会社や船、キャプテンの方針によっても違うと言えますね。ちなみに、船乗りは金ピカの肩章を嫌います。金ピカ=新米をイメージさせます。くすんだ金筋の4本線こそ、ベテランのグレートキャプテンと言えるからです。まあ、日本人らしい考え方と言いましょうか、船乗り気質と言いましょうか・・・。これは余談ですが、飛行機では3本線が副操縦士、4本線がキャプテンですね。
 
 
   
Q4.船乗り言葉って?
船乗り言葉には様々なものがあります。
それは、どの職業においても独特の言い回しなどがあるのと同じことです。
言葉 意味・語源 用例
レッコ

(デッコ)

大訳は「捨てる」という意味です。

投錨をする場合は「Let go anchor」。出港の際にはホーサー(ロープ)を離せ「Let go all shore line」などと号令をかけますが、このときには それぞれ、「レッツゴウアンカー」、「レッツゴー オールショアー ライン」などとは言わず、レッツゴーの部分は「レッコ」と発音されます。これが語源ですね。

・ このゴミを海にレッコしとけ!

(現在では海洋汚染防止法にひっかかるため、ほとんどの場合はゴミを海上投棄できませんので、ご注意)

・昼からの授業はレッコする。(授業ずる休み)

サンタ・マリア 死を意味します。

語源はキリスト教のマリア様からでしょうか?

・ ああ疲れた、今日はもうサンタ・マリア(死にそう)や!

・ カブトムシがサンタ・マリア(死んじゃった)

カタフリ 雑談をすること。

若いひとたちは、もうあまり使わないようです。

・ 暇なら、ちょっとカタフッテ行けよ。
オモテ

トモ

船首の事を「舟首」(当用漢字にありません。)と書いて「オモテ」と言います。

船尾の事を「舟尾」(当用漢字にありません。)と書いて「トモ」と言います。

・ チョッサーはオモテにいます。

・ トモ側のドアから入って下さい。

あし 喫水・ドラフト ・ サードッサー! あし見て来い。
行き脚 速力 ・ 着岸は行き脚をおさえます。

・ 居酒屋でやめとこうと思ったけど、行き脚がついて、もう3軒行ったよ。

メガネ 双眼鏡 ・メガネを持って来い。
ボンク 船室に備え付けの棚ベッド。  
ポールド スカッツルとも言いますが、窓です。  
ボットム 船底もしくは、下位であることを示す。 ・成績はボットムスリー(下から3番目)だった。
スターボード 右舷と言う意味ですが、操船上の号令としては、「舵を右に15°切りなさい」ということです。 ・スターボード・イージー
(舵を右に5〜6°切りなさい)
ポート 左舷と言う意味ですが、操船上の号令としては、「舵を左に15°切りなさい」ということです。 ・ハード・ポート
(舵を35°左に切りなさい)
ステディー このままの針路を保持するという号令です。ステディーの後に保持する針路を告げるのが常です。 ・ステディー260°
(260°のコースを保持しなさい)
スターンチューブに
フジツボ
イボ痔  
アップさん   apprentice からきている。新米、見習いの意  
テイベイ 2つ、双。 アンカーテイベイ(双錨泊)でスタンバイしとけ。機関テイベイ(2基)
 
 
Q5.天測(Sight)って?
Sextant (六分儀)で太陽観測中 Sextant
   
天測というのは天体(星や太陽)の高度を観測することです。これは船の位置を確かめる為に行います。

海には道がないので、航海士は絶えず自分の現在位置を把握し、航路選定したコースライン上を航行させるよう努めます。その方法は地文航法(沿岸航海に用いられる。物標の肉眼方位測定やレーダーによる距離等を利用してチャートに作図。電波航法等もこれに属する。)及び天文航法(大洋航海に用いられる)に大別されます。主として後者は天測を行うわけですが、それに使用される重要な計器がSextantです。

天測は沿岸航法での物標のかわりに、天体の位置の線(天体の方位ではない)を求めるものです。簡単に言えば、それは推測緯度・経度からどれだけずれているかという線です。

位置の線を求めるために必要なのは、世界時、推測緯度・経度、天体の高度、天体の地方時角と赤緯(天測歴による)等です。それらによって天測計算表を用い計算します。(計算方法は必要無いと思いますのでここでは割愛させて頂きます。) タマヤの天測計算機なる便利なものもありましたが、非常に高価でしたので私は持ってませんでした。いつも米村表を使用し手計算していました。

私の乗船していた船には当時最先端だった衛星航法システムNNSS(Navy Navigation Satellight System)は積んでおらず、電波航法計器はロランとオメガだけでした。これらの計器は精度が悪いため、天測に頼っていた次第です。天測の誤差は3マイル以内が許容範囲とされています。3マイルと言いますと約5.5kmです。現在車等でGPS(誤差5m)を使用されている陸の方から思えば、とてつもなく大きなものだと認識されるはずでしょう。しかし、大洋航海中では逆にそれ以上精度が高くてもあまり意味がないのです。(勿論精度が高いに越したことはありません。)

世界地図を思い浮かべて下さい。3マイルがどの程度の大きさになるか? 本来船で使われている海図は今あなたが思い浮かべたほどの小縮尺では描かれていませんが、極端に言いますと、海図に表される誤差としての3マイルは大勢に影響がありません。

GPSの普及が一般的となった昨今ですが、天測は外航航海士の基本ですから、現在でも練習船では厳しく訓練されていることと思います。

 
 
   
Q6.海中に転落したら?

錨泊中ならアンカーチェーンにでも掴っていて下さい。薄情なようですが、航海中なら諦めて下さい。死にます。

私は「俺は海に落ちたけど、船が迎えに来てくれて助かったよ」などと言う話を聞いたことがありません。(戦時中の沈没、瀬戸内海や大阪湾のような平水区域は別です。)私の先輩でも落水され、行方不明になった方が何人かいます。

人が今海中に落ちたことを、運良く誰かが見ていたとしても、助かる可能性は50%以下でしょう。落水発見者がブリッジまで走り、すぐさま当直航海士に告げても、そのときまでには相当の時間が過ぎています。船は対処するまで走り続けていますし、海には潮流もあります。落水者の元へ返ることは容易でないのです。それに人間は海面から頭一つしか浮き出ないわけですから、波の中で、落水者を発見するのも至難の技です。落水から1時間以上も経過して気づかれた場合、救助がいかに絶望的であるかという理由を、これ以上説明するまでもありませんね。

もう一つ加えるならば、人間は水温6℃の海中で1時間しか生きられないと言われています。救助は時間との闘いになります。

それでも、気休めだけをお話しますと、落水時にはヘルプの姿勢をとって下さい。膝を抱え、唯じっとしているのです。決して泳いではいけません。体温を逃さず、体力を温存させ、救助までの時間をかせぐためです。そして、生きぬくことのみを胆に命じ、ひたすら救助を待つのです。

とにかく海中転落しないことです。

皆さんが大洋航海する機会は少ないかもしれません。しかし、フェリーなどに乗船した時にも、ハンドレールから身を乗り出したり、ブルワークなどに腰かけることは絶対にしないで下さいね。

 
 
Q7.機関士って?
15000HPの舶用ディーゼルエンジン エンジンコントロールルーム
(1〜5万総トン数級に用いられるエンジンです。) (機関士たちが運転を見守ります)
   
船と言えば、航海士や船長がその代名詞のように考えられがちですが、それ以上に重要なのは船の心臓部(エンジン)を支える機関士たちです。船をただ前に走らせるだけならば航海士でなくともできます。しかし、機関士がいなければ船は一歩も前に進めません。

車や飛行機、電車ではどうでしょう。ほとんどの場合は操縦者だけが乗務していますね。(昔は航空機関士がいたり、蒸気機関車では運転士を機関士と呼んでいた。)なぜ、船にはエンジンを担当する機関士がいるのでしょうか?

航海は短い時で丸一日、長ければ40日(南米〜日本)にも及び、その間、船のメインエンジンは動きっぱなしです。(逆に言えば片時も止まってはなりません。もし、荒天時にエンジンがストップするようなことがあれば、それは即転覆を意味します。)機械を動作させれば、部品は熱をもったり、磨耗したり、欠損したりしますね。船のエンジンに限らず、何日間も保守・整備・点検なしに機械を連続稼動させることは不可能なのです。

また、船は仕事の場であると同時に生活の場でもあります。ですから船には航海と生活に必要な全ての設備を備えてあります。エンジンのみならず、他に発電機、ボイラー、冷凍機、空調機、油圧システム、各種ポンプ、蒸水機等々。航海士には訳のわかららない機械装置ばかりです。これらを整備し、円滑に操作出来得る為には相当の知識と熟練した技術が必要になります。その精鋭たちが機関士なのです。彼らの存在は縁の下の力持ち的ですが、その能力は多岐にわたり、電気の把握、製図はもとより、機械と名のつくもの全てにおいて精通していると言って過言ではありません。「機関長までした人なら、車を一から作れる」と形容されるほどです。

余談ですが、船のディーゼルエンジンに使用される燃料はC重油と言って、おおよそ燃料とは思えないほどドロドロ(常温では固まっている)しているコールタールのような粗悪品です。その燃料を使って機関を止めることなく航海させるのですから、それだけでも素晴らしい技術者であることは分かっていただけるのではないでしょうか。

将来いかに機械技術が発達しようとも、船にはかかすことのできない士官です。

 
 
   
Q8.デッキ帽はどこへいった?
(昭和38年頃の船乗り)
マドロス・・・。こんな言葉自体が死語でしょうか? しかし、この言葉を聞くにつけて皆さんが想像かきたてる姿とはどんなものですか。おそらく、「デッキ帽をかぶった若い兄ちゃんが、ビットに片足を上げ、皮ジャンを肩にぶら下げている」なんてところでしょう。漫画や映画などでもそのようなシーンが数多く描かれてきましたので、擦りこまれているものだと思います。

とはいえその昔、デッキ帽は本当に船乗りのトレードマークでした。勿論、航海訓練所や客船、フェリーボートなど他人の目を意識しなければならない特別な船では、今も尚被り続けられているようですが、一般商船の船員は、まずデッキ帽を持っていないのが実情でしょう。デッキ帽は過去のものになったと言えます。

それは昭和39年に施行された船員労働安全衛生規則によります。同法は51条床面から2メートル以上の高所作業、54条重量物の移動、56条揚投錨作業及び係留作業、66条船倉内作業、67条機械類修理作業、等々の規定において全て保護帽の着用を義務付けました。(保護帽とはヘルメットのことです。)これらは船上における一連の作業ですから、要するに「仕事をするときにはヘルメットをつけなさい」ということです。この結果、デッキ帽は衰退の一路を辿ることとなったのです。先に述べた客船等とて例外ではなく、デッキや船内を闊歩するにはデッキ帽でなんら問題はありませんが、いざ作業を行う場合にはやはり保護帽を被らなければなりません。

私は幼い頃(法律は施行されていたが、まだデッキ帽を被った人が多数いた。)、父が乗船する船に行ったとき、ペンキのついたデッキ帽姿のセーラーさんたちによく遊んでもらった記憶があります。しかし、現在、私はフォアマンとして多くの船に訪船いたしますが、デッキ帽を被った船乗りは皆無と言えます。古き良き時代を懐かしむのは私だけでしょうか?

 
 
Q9.港、港になんとやら?
若い頃、飲み屋のママなんかに「船乗りは、港、港に女ありなんでしょ?」などとよくからかわれました。
「昔の話でしょ」なんて答えていましたが、さて真相はどうだったのでしょうか?
   
船長や機関長が2号さんを乗せて航海していたなどという話もよく耳にしましたが、それも今は昔の話です。船乗りだから「女好き」「酒好き」なんていうのも固定観念ですね。こればかりは、人それぞれでしょう。全く女遊びをしない人もいました。それに、やはりもてる人もいれば、そうでない人もいます。
練習船に乗っていた頃には、それこそ港・港で浮名を流すツワモノもいましたが、どこの港に行っても女気のないモテナイ君もいましたよ。でも、知り合った女の子とは練習船を下りると、それっきりになることが多かったようです。それは本人がもててたんじゃなくて、練習船がもててただけなんですね。(笑)練習船は綺麗ですから。

余談はこれくらいにして、本題にはいります。船乗りに対しそのような噂が流れたのには、それなりの時代背景といくつかの理由が考えられます。
近年では年間1600万人もが海外旅行を楽しみますが、昭和39年の海外旅行自由化以前は限られたごく小数の人にしか許されないもでした。それを船乗りは自由に往来していたわけですから、その特権は羨望の眼差しで見られていたことでしょう。現在、空のパイロットや客室乗務員が異性に憧れられる職業であることに似ています。
当時、船乗りの給料は陸上の3〜4倍でした。(離家性や海運に依存する日本においては、当然の報酬のように思いますが、現在その格差は縮まっています。) その上、船では作業服、居住区、食事は無償で提供されますから、給料の全てが使えます。また、今般、船は荷物によって専用船化され、港湾設備も飛躍的に進歩した結果、荷役スピードが上がり停泊期間が短くなりましたが、昔は停泊1〜2週間などというのがざらでしたから、窮屈な船内生活から解放された若い船乗り達は夜な夜な街に繰り出し、散財して遊びまくったのではないでしょうか。
停泊が長いとなじみにもなりますし、映画などでは頻繁に船乗りを取り上げ、カッコよく描いていましたからそれも追い風になりました。それに当時の女性は船乗りに対し、哀愁を持って寛容かつ優しく接っしてくれたのだと思います。モテル条件は整っていたと言う訳です。

「港・港に女あり」だった人がどれくらいいたかはわかりませんが、最大の要因はその船乗り気質ではなかったかと想像します。どの世界の人でもそうでしょうが、いかに当時の船乗りと言えども、やはり金銭的・性格的にセコイ人はもてなかったと言う話です。
また、時代を反映し一世を風靡した船乗りも、現在ではその影を潜めました。残念ながら憧れや尊敬の念で特別視される事もほぼ無くなり(これは、その苦労の見返りである給料面、待遇、日本人船員の存在価値等が下がったことで証明できる)、多々ある職業の一つとなった感を受けます。したがって、今日、船乗りだから……などという事は、稀なことでしょう。ほんとうにモテル人は職業に関係無くもてます。今尚、「港。港に女あり」の人がいるとすれば、それはその人自身に魅力があるのであって、たまたま船乗りであるに過ぎません。

しかしながら、付け足しますと、私のまわり(先輩、後輩、同期)などを眺めれば、その奥さん達のほとんどが、結構な美人ぞろい、並以上です。(そうでない方もたまにはいます。)

 
 
Q10.船上でペットは飼えるか?
今尚、東南アジアのある海域では、海賊による被害を受けた報告もありますが、まさか左画像のような格好はしていないでしょう。これは私がイメージで書いた絵ですので、その辺はご了承下さい。でも、海賊と聞くと皆さんもこのような画像が頭をよぎりませんか? ピーターパンのフック船長に起因しているのかもしれません。そして、これにくわえ、私は何故か「船長が肩にオウム」を拭い去れないのです・・・。

では実際の話として、現在船上でオウムやその他の動物を飼うことができるのでしょうか?

厳密に結論から言いますと、絶対ではありませんが、それは非常に困難です。
動物の輸出入には農林水産省が行う動物検疫を受けなければなりませんし、ワシントン条約の問題もあります。これは観光客のみならず船員においても適用されます。動物検疫は家畜からの伝染性疾病を防止するために世界各国で行われていますが、日本では、犬、牛、豚、やぎ、ひつじ、馬、鳥類、兎、ミツバチなどの動物や、それら動物から作られる肉製品も対象物となっています。
また、2000年からは、猿、きつね、スカンク、猫、アライグマもこれに追加されました。

動物を輸出する場合には相手国に入るための条件を満たす必要がありますし、輸入には輸出国政府機関の監視下で対象動物の係留検査が必要で、さらに輸出国政府機関が発行するその証明書がなければなりません。
外航船にこれを当てはめますと、かなり複雑です。出港では

輸出、入港では輸入の適用を受けますので、その都度の手続きは、ほぼ絶望的に無理なのです。

しかしながら、昔は船内でよく猿を飼っていたそうです。昭和40年代当時は東南アジアなどに行きますと、インスタントラーメン一つで「カニ食い猿」の子供と交換してくれました。(インドネシアのシャーマンという猿は、現金でしか売ってくれなかったそうです) 退屈しのぎに猿を飼っていたのでしょうが、意地の悪い航海士などが飼っていた場合には、彼が当直で部屋を留守にしている隙に誰かが変なことを教え、ペットとしてダメにすることもあったと聞きます。

私の父はシャーマンの太郎を家に連れ帰りました。とても頭の良い猿でした。主人の父には非常に従順なのですが。父が見ていない時、まだ小さかった私は太郎にしばきあげられてよく泣かされました。それから、太郎はそこらで「粗相」をすることもなく、トイレにつれて行くと金隠しを必死で掴みながらも、ちゃんとまたいで、排便できていました。私の父は動物を躾るのが非常に上手なのですが、唯一私だけは育て間違い、こんな風になってしまいました。

※内航船では、犬を飼ってる船もたまに見かけます。
 
 
   
Q11.サロン、メスロン?
船ではライセンス保持者を職員または士官と呼びますが、それらは2種類に大別されます。
肩章または金モールで示す3本線以上をサロンクラス、2本線以下をメスロンクラスと言います。
これは責任の重さに準じるように、その待遇も異なります。

サロンクラスとメスロンクラスではまず居住区(部屋)の大きさが違います。やはり、キャプテンの部屋が一番大きい(公務室とベッドルームが別れています。)です。しかし、3本線でもメスロンクラスの倍程の広さがあてがわれます。(下位になるほど部屋は狭いのが常です。)

食事の際は、サロンとメスロンのテーブルが別れます。昔はそれぞれのテーブルにボーイがついていました。サロンクラスに給仕する人をサロンボーイと呼び、メスロンクラスにはメスボーイがついていました。ボーイさんはそれぞれのクラスの部屋掃除や洗濯なども受持っていたのです。当然ベットメーキングもしてくれるのですが、洒落たボーイさんなどは毛布を薔薇の形にメイクしたりもしたそうです。(「薔薇にされるともったいなくて、よくソファで寝たよ」と言う話も聞きました。)
私が混乗船(日本人+韓国人)に乗ったとき、(ほとんど日本語を話せない)サロンボーイだけがいました。私はボットムのオフィサーでしたので、もちろん部屋掃除は自分でしなければなりませんでしたが、食事の時だけはサロンボーイが、片言の日本語で「たくさん食べなさい」と言いながら、ご飯をよそってくれていました。私たちメスロンクラスだけに、そう言っているのかと思いきや、キャプテンにも満面の笑みを蓄えて
「たくさん食べなさい。」
と山盛りご飯をよそっていました。
キャプテンはいつも、「この船で俺に命令するのは、君だけだ。」と苦笑していましたっけ。

乗組員それぞれが向ける目にも区別はあります。
士官の指揮下にいる部員さんとて、サロンとメスでは接し方が違うのです。サロンクラスは対外的同様に船内的にも尊敬されて存在しますが、メスロンクラスには手厳しいです。ウカウカ、ボサーとしているメスロンクラスなどは、ボースンや古手のクォターマスターなどにやり込められてしまうことも、ままあります。
「サードッサー、嘘やろ? そんなことも知らないの?」
なんてところでしょうか・・・。上からは怒られ、下からは突き上げられて、とても辛い立場のメスロンクラスと言えないこともありません。

現在では乗組員の少数化が進み、ボーイ制度もほぼ無くなってしまったのではないかと思いますが、異なった状況でボーイさんが乗船している船があるかも知れません。また、サロン・メスロンの区別なども社によっては多少異なる場合もありますので、私の説明に不足な部分がないとは言えません。そんな時代こんな事もあったという程度でご理解下さい。

 
 
Q12.船長は舵を持たない?
一般の方々は船長が舵を持って操船すると考えがちですが、船長が舵輪(ステアリングホイール)を持つ事は、まずありません。

左の写真は船長が操船する場合(狭水道通過、出入港、危険が切迫する場合等)の通常配置です。船長がブリッジ前面に立ち、操船号令をかけます。そして、操舵手がそれに従って舵を切ります。
航海士は船長の指示に従ってエンジンテレグラフを引き、操船後の船位測定やレーダーでの監視などを行って船長の補佐をします。

通常の航海では船長にかわり、航海士が操船号令をかけますが、やはり操舵手が操舵

を担当します。(大洋航海中はオートパイロットを使用) 航海士免状の無い(航海士免状があっても、雇入れが操舵手である者を含む)操舵手がかってに舵を切り、避航動作及びその他の操船を行ってはなりません。
また、船長の命令により航海士が操舵することもありますが、船長が操船している場合は航海士といえども自由に舵を切る事はできません。操舵をしている者が操船をしてる者ではないのです。全ての責任は操船者に委ねられています。

小型船舶の場合もライセンス保持者が同乗していれば、誰でも舵を握れることになっている(2003年6月からは、出入港時を除く)のは、こういった大型船の慣習が元になっています。

※オートパイロット:自動操舵装置
 
 
   
Q13.乗船中に休日はあるの?
船乗りの休暇は会社によって様々です。漁船乗りのように半年〜一年も日本を離れて操業する方々もあれば、内航小型近距離フェリーのように毎日家に帰ってくる船乗りもいます。
一般外航商船では、やはり会社の大きさにより異なります。外航労務協会や中小労務協会に加盟している会社では休暇制度も確立しています。6ヶ月または8ヶ月の乗船で2〜3ケ月の休暇など、ほぼそれに準ずる形になります。しかしながら、私が乗船していた名も無き会社では2年も連続して乗船しているような局長がおられたりしました。ちなみに私の場合は、学校を卒業して初乗船から13ヶ月を過ぎるまで休暇を頂くことができませんでした。

では、本題の乗船中における休暇はどうでしょうか?
船に予備員は乗船していません。したがって、誰も休むことは許されないのです。「着岸中や錨泊中は仕事がないだろう」と思われるかもしれませんが、荷役当直だの、停泊当直だの、やはりワッチはきっちりと割り当てられています。ですから、乗船中は日曜・祭日でも丸一日休みなどという事は、基本的にありません。
ただ、機関部などではM0(エムゼロ:ワッチ制ではなく、日中のみ当直し夜間は自動制御)などの船では1ヶ月に1度ほど(大洋航海中)交代で休みをとることもあります。
甲板部ではブリッジを無人にすることはできませんので、昼夜を問わず誰かが当直していなければなりません。ですから機関部と同じようなシステムで休みを取ることは難しいことになります。そこで本来当直業務がない船長が、特別に航海士に代わってブリッジ当直をしてくれることがあります。3日間ほどかけて航海士のワッチを抜いてくれるのです。しかし、このようなことを全ての船長がやってくれるかと言えば、答えは「NO」です。乗船中は休みが無いものと思っていた方が無難です。

私が乗船していたとき、キャプテン
「明日は良い天気のようだし、私が24時間ワッチをとるから、航海士は休んで下さい。」
と言われました。初めての経験でしたので、時々ブリッジに上がり様子を見に行ってましたら(休みをもらっても、海の上でやることないし結局ブリッジへ行くんですよね)、元気ハツラツだったキャプテンが時間と共にどんどん衰弱して行きました。そして、とうとう12時間後、一等航海士の命令で、航海士が当直復帰することになりました。
やはり、航海士が休みをとることは難しいというお話でした。

 
 
Q14.船乗りの一番悲しいとき?
身内が亡くなったとき。これは論外ですね。そばにいてやれなかったという悔恨の気持ちは強いにしても、陸、海、空の別はありません。誰だって悲しいものです。これ以外で論じましょう。

では別れの時が一番もの悲しいと思われますか? 勿論、愛する妻や恋人、惹いては日本としばしサヨナラするのも辛いでしょう。しかし、最も寂しく、切なく感じる瞬間は、出会いの時です。正確には再会の時と言った方が良いかも知れません。
「そんなバカな!?」
と、思われたでしょ。でも多くの船乗りが口をそろえて同じことを言います。

船乗りは、航海中家族のことを思い続けます。特に子供に対してはそうです。幼い子供の写真を飾り、それを見ながら、グラスを傾けることもしばしばです。上陸しては子供の土産を探し、喜ぶ顔を想像しては悦にいる。こんな毎日を過ごし、やっと下船の日がやってくるのです。
そして、ついに我が家の玄関を開ける。妻は娘を抱え、それを笑顔で出迎えます。しかし…。
「ギャ〜〜〜、ビェ〜ン!」
娘は父の顔を見たかと思うと大声で泣き始めるのです。しかも父に指を刺し、母にしがみついて。父が近づけば近づくほど号泣します。
子供が物心つくようになるまでは、これの繰り返しだそうです。
半年以上も留守にしていたのですから、1歳や2歳の幼児にしてみれば、父の記憶が消えてしまっていても仕方ありません。しかし、船乗りにとっては、これがたまらなく切ないそうです。


 
 
Q15.船幅32mが多い理由
大型タンカーなどでは全長350m 幅55m という船が存在しますが、コンテナ船やバラ積船、自動車船等では全長が250m以上あっても、幅は32m というスマートな船型のものがほとんどですね。全長がそれはどあるなら、幅が40m でもよいはずです。大量輸送を目的とする船舶なら、長さに見合った船幅を確保すべきが当然だと思われますよね。

それは航路によるところが大きいのです。大型タンカーは、パナマを渡って石油をとりに行くことはありません。
パナマ運河にある各ロック(閘門)は、長さ304.8m 幅33.5m 水深13m で建設されていて、通行可能な船舶を長さ294.1m 幅32.3m 喫水12m という具合に制限付けています。(少しこれを超えた船、または艦船が通過した実績もあるようですが。) ですから、ワールドワイドの航海が予想される船舶は、この規定を遵守するように建造されます。なにしろパナマ運河を通過せずに南アメリカ大陸を迂回すれば、5,000マイル以上のロスになりますから。
米軍艦船もほとんどが船幅を33m以内に抑えられています。空母などは甲板部分が、それ以上になっていますが、そこはご安心下さい。ロックサイドに備えられた照明塔は外向きに折れ曲がるようになっています。

ただし、ロックはパナマ運河だけではなく、潮の干満が激しい港(干満差7m以上というところもあります。アントワープ港、仁川港等)でも、港内を一定の水深に保つ為、ロックを備えて対応しています。従って、船幅を大きくするにはその辺との関連性も考慮しなくてはなりませんね。

*2016年6月26日、新パナマ運河が開通し、船幅49m、全長366m、喫水15mの船が通過可能となったそうです。

 
 
Q16.時刻改正と時差ボケ
飛行機で外国へ行場合には、到着前に時計を現地時間に合わせますね。「いや、私は飛行機に乗ったと同時に現地時間に直す。」と言う方もいるでしょうが、どちらにしても、搭乗機中での不都合はあまり感じないのではないでしょうか? それは、出発地の時間を基準にして、定期的に食事が配給されますし、その他は外界と隔たれ、独自の時間が流れるからですね。
船の場合も外界と離れて時を過ごす点では同じなのですが、目的地に着くまでの時間が飛行機と比較にならないほど長いもので、生活を伴いますから、それと同様に考えては弊害が生じます。

地球は24時間で(西から東へ)360°自転することから、時間弧度は 1時間=15°、1分=15′です。(頭に置いて下さい)
例えば、東に20ノットの速力で24時間航海した場合、その行程は480マイルですね。これを(単純に)時間弧度換算しますと32分となり、それだけ早く一日が過ぎます。どういうことかと言いますと、東向きに航海したこの船上では一日が24時間ではなく、23時間28分になるということです。(西向きに航海した場合はこの逆で、一日の時間は24時間より長くなります) 一日ではそんなに大きなことではありませんが、これを10日間放置しますと、320分(5時間20分)も太陽時(太陽がある子午線に2回続いて正中する間隔。同一子午線上では24時間)との差ができます。すなわち、10日前12時に正中していた太陽が、10日後には午前6時40分に正中してしまう不都合な結果になります。船内生活に支障が出ますよね。

これを解決するのが、日々の時刻改正です。
正午位置を出した後、船の針路・速力により翌日正午の推測経度を求め、そこから推測正中時を計算します。そして、それを正午近くにもってくるよう時刻改正を行うのです。もし、翌日の子午線正中が11時40分になると予想された場合は、船内時計を20分進めます。(こうしておけば、翌日も12時に太陽が子午線正中します)
時刻改正は三等航海士の仕事です。計算は勿論のことですが、時計を動かすのもその当直時間中に行われます。(私の乗った船では、午後10時頃に実施していました) 東向きに航海する場合は時計を進めますので、当直時間が減りラッキーなのですが、西向きでは遅らせますので、当直時間が延びますから嫌でした。サマータイムを使用しる国や、その国の標準時子午線からずれた港を出港したあとには、1時間以上もバックで時刻改正をしなければならない時があり(翌日のメリパスを正午前にもってきたいから)、ほんとうにがっかりしたものです。(笑)
ちなみに、日付変更線を超えた翌日は、東経→西経の場合に同じ日付を繰り返し、西経→東経の場合に日付を一日飛ばします。

さて、それでは時差ボケはどうでしょうか。飛行機でアメリカやヨーロッパなどに行きますと、当日〜翌日にかけては、「ボーっとして全然ダメ」などという話をよく聞きます。昼と夜が短時間で逆さまになるのですから、当然でしょう。船における時刻改正は一日20〜30分ぐらいが常です。徐々に時差を解消していくわけですから、飛行機で移動するのと比べれば、時差ボケはそれほど顕著にあらわれません。しかしながら、アルゼンチンから日本などの超長距離航海や地球を同一方向に回る世界一周航路などでは、時差が体に蓄積されるのでしょうか(ストレスはこればかりではないのですが)、時がたつにつれ、不眠やだるさ、イライラ等、体に変調を来たすこともあります。やはり人間は一日を24時間で過ごすようにできているのですね。

※正中   : 高度が一番高くなるとき
※メリパス : 子午線高度緯度法。太陽が子午線上を通過するときの高度を観測し、その時の緯度を求める計算法。
 
 
Q17.船酔いを克服する秘策は?
ありません。はっきりもう1度言いましょう。そんなものはない。しいて言うなら、我慢する。

ですが、あまりにもそっけなくて申し訳ないので、私の経験を交えながら船酔いについて少し書いてみます。なにかヒントを掴んで、自分なりに船酔い対策を講じて下さい。

水平線を眺めている。船首尾線上にいる。機関室から遠ざかる。睡眠を十分にとっておく。サングラスをかける。祈る。等と、迷信じみた事や、まやかしはいくつかありますが、敏感な人はあまり期待しない方がよいでしょう。
短期的な航海で最も効果的なのは、やはり使用上の注意をよく読み、用法・用量を守って、酔い止め薬を服用し、眠ることです。しかし、これもある程度の揺れにまでしか対応できませんね。

船の横揺れ(ローリング)周期が7〜14秒だと、人間は最も不快感をもよおすそうです。大きなフェリー(フィンスタビライザーという特殊な揺れ緩和装置を持っている)や商船はこれ以上の周期で揺れますので、ほとんど酔いません。
しかし、そのような船でも荒天下では、横揺れが大きくなりますし、他に縦揺れ(ピッチング)や横滑り(ヨーイング)、スラミング(船底を波がたたく)やパンチング(船首からの衝撃)が加わり、複雑怪奇に揺れることもあります。「木の葉が舞うよう」という表現がピッタリです。
私の場合は船が揺れると腹が減りました。船上で日頃運動不足のせいか、時化ると手足を突っ張り、力を入れて踏ん張るからでしょう。また、お客さんと違い、自分が操船しているという責任感や緊張感が酔いを跳ね除けるのかもしれませんね。

しかしながら、かく言う私も酔ったことはあります。ですので、その辛さはよ〜くわかっています。
幼い頃、母と共に父が勤務する船に乗りましたが、三陸沖で時化に遭って私も母も大船酔いです。そして塩釜に緊急入港。船長に「船酔いで死んだやつはいない!」と、こっぴどく怒られました。(内航小型鋼船でしたので、緊急入港してくれましたが、フェリーでこんなこと言ってもだめですよ。)

学生時代、練習船に乗るのですが、これがまた揺れる船でした。練習船だからわざと揺れるように作っているのかと思ったぐらいです。両弦で85°も揺れたことがあるんですよ。この船に乗れば、たいがいの奴はくたばりました。私のクラスでは40人中、37人までが酔った航海もあります。
私は元来船酔いには強い方ですので、酔うにしても皆よりあとになります。弱いのは仕方ないのですが、トイレまで間に合わない奴がいるのです。商船学校の学生のくせに、節操がないというのでしょうか、だらしないというのでしょうか、教室だろうがパッセージだろうが、かまわずに吐いてしまうのです。(今は一等航海士として世界の海をまたにかけてる奴も昔はこんなものでした。) 元気な私は教官に言われ、いつもその掃除をさせられていました。それで、気分が悪くなるんです。

皆さんは、船乗りのように酔うことを恥かしいと思う必要はありませんし、また船酔いを怖がって、船嫌いになることもナンセンス。船はそれをカバーできるだけの魅力をもった素晴らしい乗り物です。
慣れていない人が時化の中に放り出されれば、誰だって多かれ少なかれ酔います。ただ、船酔いして他人の手をわずらわすことは避けなければなりません。弱い人は薬を用いるなりして十分に注意しつつ、快適な船旅を楽しんで下さい。ご安航をお祈り致します。

 先日、探偵ナイトスクープを見ていたら・・・、
気づかれないよう酔っている人のうしろからそっと近づき、不意に@首元(うなじ辺り)→A股の順に水をぶっかける。(TTL1〜2リッターくらいでしょうか)すると、船酔いが一瞬で治るそうです。お医者さんもビックしていましたが、本当に効くそうですよ。

 
 
Q18.CAPTAIN'S CABIN
キャプテンの部屋が広い事は先にも述べましたが、その場所も決まっているんですよ。それは、まず99%の確率でブリッジ直下の右舷側です。

理由は「見晴らしが良いから」です。

船内でのキャプテンはあまり、乗組員たちと親しく付き合わない傾向にあります。(たまには、すごくフレンドリーな方もいます。)指揮官であるキャプテンが、乗組員と「ナアナア」になるのを防

ぐという意味合いよりも、キャプテンなりに気を使っていると言えるでしょう。

GREAT CAPTAIN ともなりますと、やはり、それなりの威厳とオーラのようなものがあります。近寄り難いといいましょうか、その場が緊張感に包まれます。そのことをご自身ながら心得ていらっしゃるのです。
船内での飲み会の時なども、お金をたくさん出し、良い酒を提供しても、早めに切り上げて部屋に帰りますし、大洋航海中のブリッジへは、三等航海士の当直ぐらいしか上がってきません。船乗りは元々孤独な商売ですが、キャプテンは孤独の最たる者です。

それでは、キャプテンの部屋がそこにある理由を詳しく説明しましょう。
一航士や二航士の当直時にはやや安心して部屋でくつろぐキャプテンですが、船舶が複走する地域や、経験の浅い三航士が当直に立っている時には、キャプテンに葛藤が生まれます。心配で心配でたまらないという具合です。しかしながら、ブリッジに上がって安易に自らが操船してしまえば、信頼関係を損ねる恐れがありますし、なによりも三航士を育てることにつながりません。ですから悶々とした気持ちで部屋にいるのです。その時間中、何度も何度も窓から外の様子を眺めては危険のないことを確認しています。また、危険だなあと思っても、ぎりぎりまで辛抱します。船の針路が変ると「ホッ」と肩を撫で下ろし、窓から離れソファーに腰掛けるのです。上に立つということは大変なことですね。キャプテンの心労は察するに余りあります。(笑)

なんかここまで書けば船員はそんなに素晴らしいのかね?と語弊がありますね。すいません。白状します。。。
ちなみに私が以前勤めた会社の偉いさんはどうかと言いますと、同様立派な人もいましたが中には、部下への責任転嫁が常套手段、立場を誇示し、権限移譲ができない支配者タイプ。部下の尊厳を傷つける。など兼ね備えた人がいます。これでは信頼関係も尊敬もあったものではありませんね。まず、船長や機関長になれるような資質の持ち主ではないです。
でも中にはおぼえめでたく船長になる方もたくさんいます。上にはペコペコ、自分の点数稼ぎのため乗組員に苦労を強くせに、発言すれば重箱の隅をつつくようなことばかり、威張るけど金は出さん、おまけにチクリ!こんな方は船内でつまはじき、逆の意味で近寄りがたい船長で、勿論尊敬などされません。
(実際のところグレートキャプテンなどは稀です。) 皆さんの働いている会社の上司さんは、さてどうでしょう?
 出世は知識や実力、人格よりも、世渡り上手かどうかが重要です。それは海も陸も同じですね。

話しが横にそれましたが、元に戻しますね。

船においては、他船との見合い関係から、避航船(舵を切って避航動作をとる側)と保持船(進路・速力を保持する側)に分かれますが、大まかにいいますと、左方向から来る船舶については、本船側は保持船となることが多く、注意は主に本船が避航動作をとらなければならない右方向にそそがれます。(危険は本船の避航動作上、右方向から来る「横切り」か「行き会い」か「追い越し」かなどを判断しにくい場合に発生しやすいので、特に右舷側方向の他船動向に気を配る必要があります。)
しかしながら、船においては甲板上の貨物積載や荷役設備などの甲板上構造物により、左舷側や下層の部屋からは右舷方向が死角になることが多いのです。したがって、ブリッジに上がりたくても上がれないキャプテンの部屋は、いつでも右舷方向の視界が確保できる場所に設置されるという訳です。

※航海士の部屋は右舷側となっていることが多いです(帆船時代からの名残か?)が、他の乗組員の部屋は船によってまちまちです。


   
作者著書