Great Captain
グレートキャプテンって?
(大手にグレートキャプテンはいない?)
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「これを書けば首になるぞ」とある人に脅された。なにか都合の悪いことでもあるのか? 中身も見ないで、完全なパワハラですね(笑) そう言われると是非書きたくなる。

この業界には Great Captain という真しやかな言葉がある。
この頃では本来の意味を廃し、おだてたり、揶揄したりするのによく用いられるのはご存知の通りだ。まあそれほどGreat Captainと称される方がいなくなった証拠とも言えよう。
皆さんは船乗りと聞くと海を連想するためでしょうか、大らかな者をイメージするようだが、こせこせした者も意外に多い。
・部下を見下し、頑なに自分だけが正しい独善的傲慢船長
・会社の金でしか飲まない船長や、部下に割り勘のドケチ船長
・権限移譲できない、過干渉船長
・ゴマすりで、心のない、スーパーイエスマン船長
こんな具合で、おおよそ船乗りのイメージからかけ離れている大手船長もいる。昔から他社の者には、だから大手はダメなのだと僻み半分で嘲笑されたもんだが、それに留まらず乗組員から大いに蔑まされている船長も稀ではありません。
では現代、実際にグレートキャプテンはいるのだろうか? 
私は今まで育った環境、学生、船員、代理店、通関士、Foreman、PortCaptainなどの経験の中で、延べ1200隻程度の船に関わってきた。接したCaptainは日本人・外国人、または内航船・外航船、船の大小を問わず300人を超えるだろうか。とはいえ、Great Captainと呼べるべき方は元々そう多くいなかったように思う。
昔々「船乗りは第二の外交官たれ!」などの教えもあった(大手の船長が言ったようですが、これも少々自意識過剰で、己惚れの気味、 この会社の船長なら”いかにも言いそう”な感じもする。)
ですし、ステータスも高かったから立派な船長もたくさんおられたであろうが、今どきこんなこと言うとると、外交官に怒られるだろうなあ。今は真にGreat Captainと呼ばれて相応しい方がいるかどうかわからない。

私が漠然とイメージするに・・・やはり免状は甲種船長か(一級海技士)? 経歴は商船大学出身か? いや叩き上げか? 大手でなけれなならない? グレートというからには、ベテランより上でしょう。1年や2年の経験でベテランとは言いませんから、船長の履歴は少なくとも10年は欲しい? 船長として七つの海はもちろんのこと、世界の主要各港を制覇した? 英語は勿論、第三外国語も堪能? 身長は175cm以上、体格はがっしり、髭をたくわえている? 武勇伝がある? 優しく穏やか? ユーモアセンス? お金に綺麗?そんなやつおるかっ!(笑) となってしまう。
列記したうち80%ほど備わっていれば、グレート・キャプテンの要件を満たすか?そんなものでもないだろう。私は予予ほざいてますように船乗りは免状と経験が全てである。学歴や出身母体や所属は全く関係ない。そしてどの業界でも同じでしょうが、あとは"人ととなり"だと思います。

とはいえ、Great Capt.と聞いて皆さんがパッと思いつくのは・・・郵船、MO、Kラインのキャプテンではなかろうか? なにも知らなかった私が学生のころは、それを信じて疑わなかったが、今では・・・。
例えば、私も聞いた話で恐縮ですけど、○○には三大KY船長(Three Great KY Captain)というのがいて、有名だそうですよ。本人は知らぬが仏?、みんな一緒に乗りたがらないらしい。 
確かに大手船社には自分がGreat Captainだと断じて疑わず、確固として譲らない方がいる。自称Great Captainだ。しかし多くの場合、得てしてそれは幻想と奢りであるかもしれない。
まずグレート・キャプテンと言われるに当たって、経験の面で大手は大いに不利です。今時大手で5年も船長をやるのは至難の業であるようだ。短い人は三等航海士から始まり、定年退職までの35年のうち、10年程度しか乗らないというのだから称号から省かれて文句はないだろう。

外航大手は船長のタイトルで長く陸上勤務をさせることが社に有益だと考えているようです。だから早く船長にしたい。これがチーフやキャプテンを一定規格で早く育てるオートメーション化の促進につながっているのだが、社として一つ懸念がある。大手ではだいたい55歳で早期退職とする中で、早くに船長履歴2年(昔は5年だった)を付けさせると Pilotになろうとして退職してしまう。これでは元も子もないので、船長の辞令を出すと、その後の履歴はなかなかつけさせないようにして、55歳まで引っ張るのです。(例えば、40歳で船長になってもその後は半年乗って4年陸勤務→また半年乗って4年陸上勤務→また半年乗って4年陸上勤務などして、55歳前後で2年の履歴に辿り着く)ですから船長の履歴が5-10年などという方が今は出ない傾向にある。
要するに若く船長にはなるが、どの道、早くに船長の乗船履歴2年をつけさせないようにも社は努力してるのですね。2年以下くらいではグレートはおろか、到底ベテランとも呼びにくい。だから大手でももうグレートキャプテンはいないのじゃないか?となってしまった訳ですね。

だけど、もう既にこういう安っぽいやり方は世間にバレてしまっている今、船長のタイトルだけ早く与えても、意味があるんですかねえ。(こんなことするから、今はチーフの地位が低すぎるようになってしまっている) 潤沢な乗船履歴と職務経験で船長になってこそ、関係各所の尊敬と信頼を集め発言にも説得力があるのではないのかなあと思います。
何十億、何百億もする船、金に替えることのできない人命、をベテランの方に預けない会社も勇気があるなあと、驚きますけど。。。いまどき「船乗りなんて」と軽視されている裏返し(証)かもしれませんね?

一方、経験もない若い頃からグループ内関連各社のみに煽てられ育つものだから、高慢極まりない世間知らずの自己満足型Great Chief やGreat Captainに成る者がちょくちょく出てくる。
自分のことを「小職」などと呼んで、官僚気取りな者も多く、咎められない。こういう土壌ではGreat Captainというより、がなかなか育たないだろうなあと、私は思った。


ある外航大手の中には、船長は履歴じゃないという人がいる。「この○○○(大手)で船長になること自体がGREATなんだよ。おまえたちと俺は違うんだよ!」などと語気を荒げて私にヤカラ言うた強者だ。こんな云われ方しますと反感を買うなあ。世間の評価は社の思惑に逆効果ではないだろうか? 

エリートとはそういうもかもしれないが、グループ内を抜ければごく普通の船長ということに他なりません。事故を起こすものもいれば、技術抗論が偏っている者もいる。また仲間意識が強いのは結構なのだが、至上主義を貫き偏見を持つ困った方もいます。よく言って排他主義的裸の王様、悪く言えば破廉恥な差別主義者で、コンプライアンスにひっかかりそうな人にも会った。
今でこそ郵船・商船三井などの船員は外航の多数派だが、その昔(5万人も外航船員がいた頃)はその他の方が多く、どちらかと言えば少数派でした。ましてやその技術やポリシーも数多ある船会社の一つに過ぎず、それらがスタンダードであった訳でもない。
そもそも会社の大きさと船員の優秀さに相関性はありません。あるのは給料の違いだけ。それを分かってない大手の人も多い。そのやり方しか知らない人は危険です。常識だと思ってること自体が世間の非常識だったりすることも多いですよ。

読者に勘違いしてもらってはいけない。Great Captainではないということだけであって、決してダメなCaptainだと言っているのではない。ましてや大手の船員の全員が全員こうでもない。立派な方もおられる。

かといってマンニングの船長の方が優れていてグレートキャプテンがいるか? というと、そう言うわけでもない。その昔、乗船は自分の足でタラップを上がるが、下船は必ず担がれてタラップを降りるという船長もいた。アル中だ。陸で酒を断ち健康になって乗船するのだけれど、いつも人事不省に陥って強制下船させられる船長だった。あの時代、船会社を渡り歩いていたようだったが・・・。こんなキャプテンは大手にいないなあ? 
だいたい船乗りは免状で良い会社を渡り歩くのが大半でしたので、「船長と喧嘩して辞めても次の会社などいくらでもある(昔はあった)わい!」ぐらいで、大胆不敵なというか自由奔放というか、豪放磊落、それでいて人情ある方も多かった。そういう人が育つ土壌だったと思うが、大手は最高の給料をもらいます。そこを辞めればいくら免状が大きくても給料が下がるしかありません。だから品行方正、言われるがままにされてるのでしょうけど、私が今まで関わってきた船乗りとなにかだいぶ違います。


一方、重要な操船技術はどうか? 洋上接岸を強いられる水産系冷凍船の船長の腕がいいのは言うまでもない。
また、最も難しいとされる出入港操船は、内航大型フェリーの船長が一番上手いのではないかというのが私の持論だ。港へ行って見て欲しい。感嘆する。フェリーは狭い水域で反転しピタリと岸壁につける。またそれが早い!
大型船の接岸速度は一般的に10〜20cm/sが妥当とされている(気象・海象条件を考慮しなければならない)が、これは厳密には岸壁に当たっても互いに損傷しない速度だ。理論上接近速度はこれにこだわらないはずだ。つまり、たとえ50cm/sで接近していても当たる直前10cm/sまで減速できれば問題がない訳である。港内安全速度であれば、なにも2mileも手前から必要以上に減速する必要はない。と、私は思う。
少々大げさに言ったが、フェリーの船長はこれに近いことをやる。いやこれ以上かも知れない。素晴らしい操船技術である。ただ、フェリーは学卒いじめが多いとも聞く。それではグレートどころでない。
また内航の船長には度胸で操船している人がときどきいて恐ろしい。「相手船が避けてくれなかったらぶつかってたやろ?」の操船をしといてドヤ顔のやつだ。例えば、中ノ瀬航路から鶴見航路に入る場合には浦賀から東京方面に向かう船と東京方面から南に下る船舶が川のように輻輳して非常に入りにくい場合があるが、無理矢理入って行って「なにをしているんですか?危ないですよ、気を付けて下さい」とVHFでマーチスにやんやん言われて平然としている船長がいた。せっかちもいいが、みんなに迷惑かけたらだめだなあ。どんな局面でも度胸で操船すると危ない。運が良いだけだ。
それから、瀬戸内海ではこんな船長も。
避けないので探照灯で照らされたんだろうが。VHFから「こらぁ!なぁにをチカチカ照らしとるかぁぁぁ?かわっとるやないか〜っ!」(かわってないからチカチカされてるなあ)と聞こえてきた。巻き舌でよぼっている。かと思えば、また違う場面では、「おい!おまえ避航船やろ避けんか! 保安庁に言うたるけん、名前言え!」、「こら、名前言わんかーッ!」(ふきだしてしもうたわ。名前わからんのにどうやって保安庁に言うのかなあ)などとVHFでひつこく脅迫して無視されているのも。これだけわけのわからん下品なやつはそうめったにいないが、いくら腕があってもこれじゃ論外ですね。
備讃瀬戸でいちいち揚げ足をとって当たり散らす船長もいたなあ。人のやり方全てが気に入らないタイプ。緊張感に耐えられないのか、器が小さいのか、ある種の病気なのか知らないが、いろんな船長がいる。

一方、大手船長の操船技術はどうか? 最近では操船シュミレーターなで腕を磨くようだが・・・。如何せん外航乗りは、航海期間が長く、出入港の機会が圧倒的に少ない。また基本的に大きな船ばかり乗る大手の船長が港で操船することもない。(それどころか、たかだか全長150mの船/無風で、2時間かかっても100mのロープシフトできなかった船長を見たこともある。) まず100%近くパイロットが操船する。だからフェリーの船長のような芸当はできない。
しかしながら、このパイロットさんも都市伝説的に日本人はあまりうまくないと言われてきた。これは学生でも周知のことだった。
「なにをこんなに時間かかったか? こんなつけ方なら3rd Mateでもできる」
などと、パイロットさんに怒っている愛すべきキャプテンもいたなあ。
この水先人制度を事実上既得権的に長年牛耳ってきたのが、なにをかくそう大手船長OBである。だからか個人的な感想では・・・、どんくさい人がたくさんいた。(パイロットさんの名誉のために言っておくが、上手い人も、いるにはいる)
これらで、彼ら大手船長の操船技術が、だいたい如何ほどのものか想像して頂けると思います。出入港操船下手なのにグレート・キャプテンなどとは、これまた有り得ない話ですね。
(*近年pilot制度が大きく変わりました。内航船の出身者からもパイロットさんになれるようなった。本当に良いことだと思います。)

さあ、そろそろ纏めにはいろう。
船長などは、社内規定の要件を満たし、免状は勿論のこと履歴や、勤務状況などを会社が熟慮してその職責を与えられるのありますから、それなりの技術と知識があるに決まっている。その面においては当然尊敬できて、誰しもが大差ない。しかしながら、多方向から比較して総合的に判断した場合、上記の特殊な誰かさんが言ったように、大手の船長というだけで、他を寄せ付けない圧倒的な差があるなどとは考えにくい。
技術と知識に人格と風格が備わってこそのGreat Capt.たる称号ではなかろうかと思う。それは船長になる前からいかに経験し対処してきたかによって表れるものに他ならない。

一級を持っているからGreatなのではない。その航路に必要な免状で十分である。履歴と操船術だけなら、多少内航船の方が優れているかもしれないが、それだけがGCでもない。荷役や計算、一般常識に疎い人や、報告書に稚拙な文章しか書けない者もいる。
大きな会社にいるからGreatでもない。ただ学校の成績と就職する時代が良かっただけでしょう。操船術や培われる勘、人間性に、それとの関連性はない。
なんぼ自分でええかっこ言うてもGreatにはなれない。常日頃から矢面に立って乗組員を護らない船長は、もしも船が 局面に立たされた時においても、乗組員を捨てて一目散に逃げるであろうことを乗組員は肌身で感じています。

しかし、NYKさんはさすがですね。私が言わずとも、上記のようなことは薄々感じていらっしゃったようですよ。2016年より、陸上勤務に転勤がなく、生涯において船上でのみ勤務する海上特定職の採用開始を決定(公表済)しました。見る人はちゃんと見ていたということです。元来の船乗りの姿です。なにごとも原点回帰するのですね。

陸上の会社でも同じですね。大会社に勤めるから敏腕か?人格者か?決してそうとは言えないですもんね。

最後にこれを忘れては皆様に叱られます!
色々ほざきましたが、上記は言論の自由による私の恣意でございます。もちろん、当然私ごときはグレートキャプテンになれる資質すらないことをここに付け加えておきます。とおりすがりの評論家です。(笑)

ただ、忘れてはならないことは! 人事考課などは上司だけが権限を有すると高をくくっている方が多い。公的にはそうなのだが、もっと厳しい目で本当に評価されているのは誰かということである。(発展した会社では部下による上司の人事考課もやっているというが) 部下という者は上司を本当によく見ている。自称グレートキャプテンの方は気を付けて頂きたい。

トピックス: 船長の「面白い話」
この船長は陸上勤務が主たるもので。たまにしか船に乗らないのだが、世渡り上手なために乗船履歴5年半で最近内航船長になったという30代後半の男だ。将来を内海パイロット希望としている。どんぐり目玉とシャクレにインパクトがあった。すね毛手入れのためエステに通うのが趣味らしい。

徳山出帆時のことだ。このときは、もうすぐパイロット下船というタイミングだったが、入港船があったので、航路から右に逸れて少々待ち時間が生じた。
パイロットが乗船してきたときから媚びを売り続けていた船長だったが、また大声で語りかけた。
パイロットさん、面白い話がありましてね。
面白い話が・・・と、ハードルを上げて話し出すのは、会話の手法として間違っている。また、だいたいがつまらない結末を迎えるのが常だが、しかし、ブリッジ内にいる乗組員の注目は集めるには十分だった。内航船のS/Bは短いのでその時ブリッジには、1,2,3航士、B/S, Q/M、機関長と多くの乗組員がブリッジにそろっていた。
「うちの会社では船長できるような者がなかなかいませんのでね、フェリー会社から若い一航士を船長にさせてあげるからと、引っ張ってきてるんですよ。」
「ほう。」
パイロットも嫌な予感がしたのか、そっけない相槌を打った。
「それで2年の履歴がついたらパイロットになるため辞めてしまうんですけど、それでいいんですよ。その後輩をまた引っ張ってきて。それで、準繰り順繰り若い船長で船を動かせるという具合です。若い船長だと給料安く済みますし、本人たちもフェリー会社にいるよりずっと早くパイロットになれるからウィンウィンの関係が成り立つというわけです。面白いでしょ?
ブリッジ内の空気が凍り付いているのも気づかず、バカ船長が得意になっている。悦に入って一人満面の笑みを浮かべていた。
ちょっと良識のある人間ならそれを聞いている乗組員がどういう気持ちになっているかピンとくる。パイロットは「そうですか」と返しはしたが笑顔がひきつっていた。
なにが面白い話だったのだろうか?
この船長は船内で非常に評判の悪い男だったが、ここまで馬鹿だとは思わなかった。
こんな人間でも船長になっているし、将来は希望通り内海のパイロットにもなるのだろう。
昔なら考えられなかった話だが。
私は、そういうことがとっても面白い話だと思う。


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