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帆船日本丸・海王丸の新造船?

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海の白鳥だか貴婦人だか呼ばれる日本丸Uも建造30年を迎えた。先代の日本丸は55年で引退したのだが、船の寿命としては破格だ。当時は練習生も多く、整備が行き届いていたからだと聞く。さて二代目引退の日はいつなのだろう。そして、帆船日本丸V、海王丸V誕生の可能性はあるのだろうか?

私たちが子供のころ文部省唱歌として慣れ親しんだ「われは海の子」。
海の国日本を代表する歌だと信じて疑わなかった。また必然だとも思っていた。それが昨今どうだ? 必ず採録すべき歌(小学校歌唱共通教材)の廃止に伴い、死語が散りばめられた「われは海の子」は次第に教科書から消えてきたと聞く。この名曲に・・・そんな理由があるか?
こんなところからも日本人の海離れが伝わってくる。

日本海事センターが2008年に行った「海に関する国民の意識調査の結果」では、海が 「好き」 と答えた人は男女とも7割以上と高かった一方で、 若年層 (10代) では、 「好き」 と答えた割合が低く、 「嫌い」 と答えた人の割合が高かった。また、船員のイメージについては、 外見のイメージは良好な一方で職業としての印象は 「長期間家に帰れない」 「きつい大変」 というネガティブなイメージが1位、2位を占めているという。

こんな明らかな結果が出ているにもかかわらず、航海訓練所は大型練習帆船の必要性を以下のように説く。
1)帆船は風を受けて進むので、 風向きや海流など航海の基礎となる気象条件の変化に、 より注意を払う必要がある。 また、 「全員が協力して帆を操作しないと進まないので、 協調性やリーダーシップを養える」
2)帆船の魅力を活用して海や船に関心を持つ層の拡大を図り、 育成策につなげる。 遠洋実習が減る分の日程を活用し、 将来的に船員になりうる世代の青少年らを対象に日帰り体験航海の回数を増やし、 見学会で作業を体験できるように内容を充実させる。

ここにきて未だにこんなことを言っている。。。。。

「大型帆船は商船乗りの練習生に対しては不向きだ。」と、私は終始一貫してこれを唱えてきた。なぜならば、大型帆船は練習生または隊員の連帯性を整え、士官の統率を磨くのに最適である。この一点しかないかないからだ! その場はどこか?言わずと知れたこと、軍隊である。訓練所自らが大型帆船はリーダーシップを養えると言っている。私の意見と全く以って一致する。しかし、誰をか?主語がない。大変上手く誤魔化している。その主語は主役であるはずの練習生ではない。訓練所の士官ということになる。
実情、日本丸、海王丸で実習をしたものはよく知っていることだが、士官が喜んでコロコンで号令をかけ実習生を玩んでいる。彼らのリーダーシップは間違いなく洗練されていくだろう。ただ・・・練習船の趣旨からは遠いところにあると言わざるを得ない。練習船はあくまでも実習生の教育が主たる目的であって、実習生が士官たる帆船マニヤの趣味に付き合ってやる道理はない。
今時あまり役にも立たない天測を嫌というほど練習させられ無駄な時間を費やす。たまの天測ならよいが米村表でやる必要などない。若い士官は自分が操船するのに精一杯で、実習生に教えるなど余裕のない者が大半だし、中堅クラスでは威張るだけでこれもまた操船など全く練習させてくれない。ましてやろくな教示もしない。あげくには無駄でくだらない「訓練所独特の当直交代引継ぎ」に固執して大勢を逸することがしばしばだ。航海訓練などとは名ばかりのものである。

そもそも航海士などは航海と荷役がその仕事であって、荷役がない小型船で航海をする航海訓練所などは始めから片手落ちである。それなのにもかかわらず、帆船で教育もおろそかに半ば奴隷扱いされて半年を無駄に過ごすのだから、そりゃ「いらん」と言われます。なんにしろ航海訓練所などは履歴をつけるだけで大した経験にならないというのが、海運に携わる者のもっぱらの理解である。
帆船の魅力によって、青少年を船員にする? なんの夢物語でしょう?こじつけも甚だしい。そんなことはなにも知らない霞ヶ関の役人は騙せても実情を知っている者には通用しない。自分たちの権益をまもるため、現実性のない理想を口にする。海の世界は陸の人にはわかりにくい。官僚は元国家公務員のこんな話を鵜呑みにしてしまうから恐ろしい。
訓練所が提唱する大型帆船必要論 1)、2)は一目瞭然矛盾する。
大型帆船は青少年を育成するためのものではない。はっきり1)でそれを担うものでないと謳っています。それを趣旨に作られた小型・中型帆船(あこがれ、海皇)や船(青少年の船)は他にたくさんある。なにを今更日本丸にやらせようというのでしょうか?
訓練所のやっていることは、まるでおもちゃを手放したくない子供がだだをこねているようだ。気持ちはわかるが、いかにもみっともない。航海訓練所は、海運会社から、
「帆船による実習は中大型のエンジン船が大半をしめる現在の業務実態に合わないと見直しを求める。」
とはっきり言われている。

初代日本丸、海王丸が作られた時代背景と、現代ではあまりに大きな差異ができてしまった。航海計器や機関は飛躍的に進歩したし、船員の大量生産が必要でもない。かといって観光船にはもったいない。
大型帆船がもう商船乗りを育てる船としてそぐわないということは歴然としている。航海訓練所が帆船を持ち続けようとする説明には無理がある。二隻とも持ち続けようと欲張ったから、こんなおかしなことになったのだ。商船学校の定員削減となった時点において1隻で満足し、商船教育のみに邁進する言動を一貫していればバレなかったものを・・・。また、部外でも擁護する者があったかもしれないが、海王丸は沈める、OBの期待は裏切る、時代錯誤甚だしく詭弁を振るう、ではそれも期待できない。
今となっては遅すぎる。二隻とも
海上自衛隊や海上保安庁の練習船に帰するべきだ。(大型帆船の延命には統制のとれた人員によるきめ細かい整備が不可欠である。この観点からも観光船にしてはならない。)そうすれば、大型帆船が持つ本来の効果を最大限にあげる。それが結論として日本丸3世、海王丸3世の夢にも繋がるというものだ。現在日本丸は船齢30年を数える。普通の船なら引退もささやかれる頃である。実習生が十分に整備できない昨今ではこれらの2隻の状態も悪いと聞く。10年以内の廃船・新造の議論がでるような気がする。しかし、このような活用状態では3世の可能性など皆無である。あの雄姿を見られない日がきっと来てしまう。

私たちの時代は帆船に乗りたいから商船学校に入ったという奇特(?)な者がまだ少なからずいた。商船学校の人間でなければ絶対実習生になれかったからだ。
こういった意味でも大型帆船を観光船化して船員を増やすなどの発想は逆効果だ。商船学校に行かなくても日本丸に乗れるなら、誰がいまどき好き好んで商船学校なんか行くものか。憧れだけで日本丸に乗りたいならそうなるのが普通だろう?それは日本海事センターの調査でも明らかなことである。若者が船乗りになろうとするせっかくの理由を自ら一つ排除してしまっておいて、海運思想発展の一端を担うというのだから、驕慢もここまでくると世話がない。
航海訓練所は一日も早く帆船への執着を排除し、生まれ変わる(各学校に練習船がある。また国交省は省令を改正し、一定の条件を満たす海運会社の船で遠洋実習を可能にすると言っていますから、訓練所はもういらないかもしれない?)方がよい。さもなければ、一度解体し、時代に合った正しい独立行政法人となることを期待したい。

余談だが、青少年を船乗りにさせるのは、全体的な教育の充実で船員のステータスを上げ、そして海運に優遇と規制を強いることです。日本丸に一度や二度乗せることでは決してない。

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作者著書