船の燃料節約

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これは一級海技士(航海)にも常用問題として出題されるし、大手でも議論の内にある。
燃料消費は速力の3乗に比例して消費が上がる。たまにナビゲーションフルが最も燃料消費を考えた効率の良いエコノミカルスピードである。と、勘違いしている船員もいるが、そうではない。速力を下げれば、燃料消費は必ず減る。イコールそれは、C/Bの上昇に直結する。

この減速運転は、短距離航海で効果容易だが、長距離航海では、その効果分岐点の分析に難を要す。前述の様に、航海日数が増えるとC/Bは下がる。また、長時間の低速運転は主機自体に負担をかけ、ひいては寿命を縮めるなどの説もあって、船主さんは良い顔をしないし、古い方や、腕のない機関長は聞く耳も持たない。など、事を進めるのに労力を要すところだ。

私が内航船に乗っていた時のこと、積荷・揚荷後は(荒天を除いて)有無を言わさず出港しFull回転で突っ走る。イケイケドンドンで、下手をすればNavigation Fullよりもまだ10〜15回転上げる。そして目的港へ夜中に着いて朝まで錨泊です。勿論、デマは関係ない。燃節どころではなく、毎航海燃料を余分に炊いていた。
そのとき、一度船長に質問してみたが、「内航では499でもみんなこうしている。」と言われた。面白い! 内航船のオペレーション担当は寛容なのだなあと思った。

なんのために揚げ切り/積み切り即出帆なのですか? なんのためにFull速力なのですか?(揚荷開始予定日は? それより前にN/R Tender (早く到着)しても起算されませんよね、意味あります? 岸壁使用料? デマ? 日没割り増し料金? 
船の運航にはいつの場合も全て理由が必要である。

航海中の時間当たりの燃料消費量Cは、vを速力、Wを排水量として、

C = k・v3・W2/3
(kは比例定数)

となる。燃料消費は速力の3乗、または排水量の2/3乗に比例する。要するに速力が上がれば、または、排水量が増えれば燃料がたくさんいるわけだ。1級(航海)の免状を持っている者なら誰でも知っている公式だが、それ未満の免状ではこれらに明るくない方も少なくない。
以下のデータで検証してみます。


@ 短い航海
1.の呉→酒田では、17時頃出港すると、翌々日の01時半頃の酒田着となる。
S/B、錨泊作業、ログブックなどの仕事をこなすと、3rd mateは02〜03時くらいの就寝時間となるだろうか? 明けの入港でまた早起きしてS/B、その後に8−0荷役ワッチ。夕刻出港ではたまらない。ワッチワッチで行った方が乗組員全体の体調管理には良い。
Av.speedを11.0k’ntにすると、
21.00=k・12.083・130002/3
k=21.00/1762.79・552.88=0.000021547
C=0.000021547・11.03・552.88=15.9t
(燃費1(21t):燃費2(X)=v13:v23 = 12.083:11.03 ? X= 15.9t も成り立つ)
676mile/11.0k’nt=61h 30m
5.1tの燃料消費を抑えることとなるかわりに、到着時間が5時間30分遅れる。まま、朝一からの荷役開始には間に合うだろう。
Av.Speedを10.5k’ntにしてみましょう。
C=0.000021547・10.53・552.88=13.79t
676mile/10.5kn’t=64h 23m
7.2tの燃料節約ができるかわりに、8時間23分遅れて、朝一の荷役に間に合わない。
こういうところが現場キャプテンの裁量に係るわけだが、成果を上げれば当然船長としての評価も上がる。

A では、2.でバラストを少々減らしてみよう。
こちらはスクリューのレーシングや、バウスラスターが効きにくくなるなどの弊害があるため、Ballast航海では制限があることを念頭に置く。
Av.speedを12.65k’ntのまま、バラストだけを300t減らしてみる。
19.50=k・12.653・50002/3
k=19.50/2024.28・292.40=0.000032944
C=0.000032944・2024.28・47002/3=18.71t
0.79tしか節約できない。レーシングなどのロスを鑑みれば、やっても意味のないことが容易にわかる。

B 比較計算しやすいので単に10倍としてみた。(神戸発のメキシコ・アカプルコぐらいの距離になるだろうかろうか?) 長い航海での燃料節約について考える。
Av.speedを11.0k’ntにします。
210.00=k・12.083・130002/3
k=21.00/1762.79・552.88=0.000215471
C=0.000215471・11.03・552.88=158.6t
6760mile/11.0k’nt=614h 33m
51.4tの燃料消費を抑えることとなるかわりに、到着時間が54時間30分程遅れる。3日と6.5時間です。
燃料が高騰しているようなときはよいが、仮に油代を$500.-/KLとした場合、51.4 x 500=$25700の節約。用船料が$7500.-/day程度の船なら$22500.- /3days なので、燃節運転をやっても効果が薄い。さらに、用船料が$10,000/dayの船なら、やる価値がないですね。


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