天測計算 Sight

われら海族 HOME


私のhpでも、アクセスログを見ますと、「天測計算」というキーワードで検索して、訪問されている方が結構おられます。一般の方々には興味があることなのかも知れません。しかしながら、天測についての色々なサイトを調べても、「計算は難しい」とか、「簡単だ」などと説明されているだけで、実際の計算はほとんど記載されていませんね。
それは、結構ややこしいからだと思います。いえいえ、計算自体は単純ですよ。ただ、説明すると地味だし、面白みに欠けるという意味です。たぶんページを作るのに時間がかかるけど、皆さんにとってはつまらなく、退屈に感じられるんじゃないかと懸念しているんです。せっかく作っても素通りじゃ、悲しいですもんね。でも、そのタブーを破り、頑張って説明します。

航海士と言えば「天測」というイメージが強いですよね。練習船でも徹底的にやりました。でも、今の時代は GPS なんて安価で信頼性の高い計器ができましたから、もしかすると腕の錆びついてる航海士がいるかもしれません。
私の場合はマンニング会社に就職しましたから、当時一般商船に普及していた NNSS も積んでいない船に乗せられて、毎日毎日天測をしていました。大洋航海中は暇つぶしにいいんですけど・・・。

ご託はこれぐらいにして、さあ、始めましょう。天測計算は関数電卓があれば、チョチョイノチョイです。
 
天体の時角を h 、 推測緯度を l 、赤緯を d 、とした場合、天体の計算高度は
高度 a = 90 - Cos-1 { Cos (d±l) - Cos l x Cos d (1- Cos h ) }
天体の時角を h 、赤緯を d 、高度を a 、によって方位角は
方位角 Z = Sin-1 (Sin h x Cos d / Cos a )
 
の計算式によって求めることができます。

はい、終り・・・・・。

では、面白くないので、やっぱり、リクエストの多い天測計算表(米村表)を使った計算方法について説明します。天測計算にはこの表の他に、六分儀、その年の天測暦、そして正確な世界時が必要です。お忘れなく!

米村表を使用して天測計算を学校で初めてやると1時間以上かかります。練度を重ねてもだいたい30分までに縮めるのが関の山であったが、航海訓練所では天測に大きな時間を割き、評価もなかなか厳しい。精度は勿論のこと、時間も制限されて、天体一つでは、観測からインターセプト&アジマスを求めるのに
5分以内でないと点数がつかない。したがって下船までにみんなきっちりできるようになる。
すると国家試験も通りやすい。天測計算が出題される二級(航海)の試験は3時間だが、天測計算に1時間もかかるようではほかの問題が疎かになる。合格率が落ちて当然です。5分や10分でできる者の方が断然有利なのに決まっています。
計算を以下のようにフォーム化してやれば間違いが少なく、速度も上がる。(太陽も星も同じ計算法である。言わずと知れたことだが、実計算時は、注釈部分は書かず、数字部だけを羅列していく。)
また、最近はまずやることもないだろうが、実践に則し、子午線高度緯度法も記しておく。

まず、下の計算(数字の羅列)を見て下さい。
これが天測表を使って航海士が行う、太陽による隔時観測とメリパス(子午線高度緯度法)の計算方法です。教科書等とは微妙に違うところもありますが、ポピュラーなスタイルだと思ってもらってよいでしょう。(プロは余計な事を書きませんから、とてもシンプルでしょ。)これで、位置の線2本を得ることができ、自船が推測位置からどれほどずれているのかを知ることができます。ね、どこかのhpにも書いているように簡単そうでしょ。でも、さっぱりわからないんじゃないですか?
当然です。まだ、なんにも説明してませんから。焦らないで下さい。

 
米村表を使用した天測計算
 
じゃあ、上の計算を解説して行きます。まずは左部分から
1/30 船内時午前7時40分頃、 推測位置 27° 49'.1N 156° 50'.4W において、太陽の下辺高度を 9°48'.0 に測定し、ストップウォッチを押しました。そして、クロノメーターが6時09分44秒を示すときに止めたストップウォッチは35.5秒。六分儀の器差は+1'。クロノメーターエラーは+2秒。眼高は10m。気温は水温よりも 3.5℃高い。
このモーニングサイトでの位置の線を求めます。
 
 ※東西圏高度を知るには、高度方位角計算表(米村表)末の東西圏上高度表を用いる。
 
求めた方位角と修正差を位置決定用図または大洋航海図(汚れるからお勧めではありません)に作図します。モーニングサイトは三等航海士の仕事ですが、天候さえ許せば通常は計算間違いや測定ミスを防ぐため、メリパスまでに間隔をおいて 3〜5本の位置の線を取っておきます。

位置の線は推測位置(位置決定用図ではコンパスマークの中央)から方位角の線を引き、その線上に漸長緯度縮尺から得た修正差をプラスならば方位角の方位方向、マイナスならば反方向にとる。そしてその点から方位角の線に直角な線を引くことで求められる。

星の同時観測でも手順は同じです。ただアワングルを求める際、E* (イースター)にPP値を比例配分しなければなりません。その違いだけです。(索星を間違えては元も子もありませんが…。)

また、最初に説明しました。関数電卓を使用するやり方でも、やはり米村表による場合と同様、h、d、l、等のデータは同じ計算方法で揃えますし、計算後の高度改正や方位角の符号も上記説明に順じて行わなければなりません。

 
次ぎに右部分の説明をします。
これは天体が自船の子午線上を通過する時の高度(子午線正中)を測定し、自船が推測子午線上において、北または南にどれほどずれているかを算出するものです。

天体が子午線正中する場合、天体の高度は最も高くなって、真北または真南にありますから、計算高度より高いか低いかによって、子午線上のずれを知ることができるのです。

モーニングサイトの推測位置から 針路 190°、ログ 50マイル の地点を推測位置としてメリパスを行うとすれば、以下のような計算になります。
 
 
この場合、上記の水平面図からもわかりますように、太陽は南面していますので、船内時が11時50分を示す頃から、六分儀をかまえて太陽に向い、その高度を追っかけていきます。

計算した時間近辺になりますと太陽の上がり具合が落ちてきますから、慎重に高度を測定してください。すると、ついには太陽の上昇が止まり、次ぎの瞬間から下降を始めます。決して下降高度を追いかけてはだめですよ。日が沈むまで追いかけなくてはなりません。(笑) 最高高度を観測して切り上げましょう。

あとはこの結果を位置決定用図に位置の線として記入します。
計算で出した変緯を漸長緯度縮尺からとって推測位置に移し替え、緯度線と平行に線を引けばそれがメリパスの位置の線です。

 
上記で得た二本の「位置の線」を作図したのが、左に示しました例です。

これにより、緯度差及び経度差が得られますので(メリパスをとっているので、緯度差作図前からわかっているが、星などを観測した場合)、これを使用しているチャートに移し変えて実測位置とします。

練習船などでは、位置決定用図を使わず、計算により、経度差までを算出したりします。練習船はそれでいいのですが、基本からはずれ、あまり実用的でもないので、割愛します。

というのも、

社船ではNoon Position を算出するために主にサイトやメリパスを行います。しかし、N.P.を最終的に決定するのは船長です。
N.P. は船社やチャ―タラ―に連絡をしなければなりませんし、また残航計算する上でも、元になりますから非常に重要なんです。

天測結果はその為の一つの情報にしか過ぎません。船長はそれに天候、潮流、測者の技量、計器類の示度、経験等などを加味して、N.P. を決定せしめます。三等航海士がかってに N.P. を算出してはならないのです。また、天測で得た数本の位置の線が例え一点で交わっていたとしても、それが必ずしも採用されるとは限りません。ですから、船長が判断しやすいように位置決定用図を使用して天測結果を提示する方が好まれるのです。

三等航海士が「キャプテン、メリパスが入りました。」と言うと。船長がつかつかとチャートテーブルに近寄って来ます。そして、位置の線の交差部分をじっと見つめながら「今日の水平線はどうだった?」などと、一つ二つの質問があって、「じゃあ、ここにしようか。」と、位置決定用図のある一点を指示します。
三等航海士はそれから、変緯・変経をとり、針路、速力を元にメリパス時からNoonまでの時間を航法計算または作図して、N.P. を決定します。
N.P. が決まると、直ぐさま二等航海士は次ぎの変針点に向う針路、残航、E.T.A.(到着予想時間)を算出し、船長に報告します。 

 
太陽観測において最も注意しなければならないこと。
 
赤道付近(N23°27′〜 S23°27' ) において、左図のように d (赤緯:declination ) と l ( 緯度:Latitude ) が同名で、その差が極少の場合に太陽観測をする場合は、高度が高くなり、正中が北面であるか、南面であるかが非常に判断しにくいです。

従って通常のメリパスの際は北か南に向いて六分儀を構えていればよいのですが、このような場合には

@メリパス直前には東を向いて測定。

Aメリパス時には南を向いて測定。

Bメリパス直後には西を向いて測定。

そして、@AB の平均をとるのがよい。

また、メリパスまでにサイトの時間をあけて天測しても、左図のように、方位角は東方90°付近であまり推移しませんし、午後は逆に何回測っても西方90°付近です。

天測は天候さえ良ければ、昼でも夜でも行えますが、こういった欠点があることも理解しておいて下さいね。

 
太陽だろうが星だろうが、天測計算などは50回もやれば誰だって簡単にできるようになります。米村表を用いても、デドレコを出して位置の線を1本引くまでに5分有れば充分なぐらいです。しかしながら、応用を利かせ、どのような状況下でも、(あらゆる天文航法を駆使して)きちんと位置を出すには、それなりの基礎知識(誤差論を含む)が必要です。天測計算ができるだけでは、決して天文航法を修得したことになりません。

反感を買うかも知れませんが馬鹿にしているのではありません。安全のためここで心を鬼にして言います。そんなことを練習してる暇があれば、ヨットマンとして習熟しなければならない他のことをもっとやるべきでしょう。小型船舶操縦士の方は免許(免状ではない)はあれども航海士でも機関士でもありません。はっきり言ってアマチュアです。プロに対し未熟であることを深く認識しなければならない。(しかしながら、ヨット特有の技術があることも確かです。)また、ヨットハーバーで、天測について講釈をたれるヨットマンにでくわしたこともありますが、付け焼刃や過信は非常に危険ですし、天測をできることがプロっぽいからといって無理・無駄なことをする必要はありません。
@位置の線1本を計算するのに10分以上かかる方は、天測について熟練していない素人とはっきり言えます。
AGPSなどの機械は壊れることがあるのだから、非常の際のため天測計算を修得しなければならない。などと言う講師は信用してはなりません。六分儀程デリケートな機器はないからです。
B小型船舶の特性を把握し、低測高度、動揺、または、水没、振動などを考慮して、天測には適さないと判断する。よって、現代では、六分儀よりも耐水性、及び、衝撃に強いGPSを選んで使用することを勧める。
 
*天測計算において米村表を用いるのは、日本独自のものです。各国の商船学校や海軍ではイギリスのMunro's Navigation Table や Norie's Nautical Table、 また Nautical Almanac を用いて訓練するところが多いようですが、様々ですね。ちなみに、お隣の韓国では、Sight Reduction Table for Marin Navigation 等のアメリカ式のものを使用すると聞いています。

日本の米村表は計算を行うために1冊の単一表ですが、外国の物は TableA, TableB, TableC, 等とあったり、緯度により Tableが異なって複数冊あったりします。持ち運びが大変ですね。米村表も赤道付近で方位角が甘くなるという欠点があるように、各国それぞれの表においても利点欠点があるようです。

 

作者著書