S/F ストウェージファクター

われら海族 Index


その人は官庁の部員上がりの一航士だった。出身官庁のキャップをいつも被り、「二言目には○○庁では・・・」と始まる。そんなに好きなら辞めんかったら良かったやんと思ったものだ。
久しぶりに次席一航士として乗船した私に向かって、その人は頭ごなし敵視して「三航士からやった方が良いんじゃないですか?」と、嫌味を言ったが、この本人自体出身が出身なだけあってたいしたことない。荷役関連の知識が希薄で、実力が伴わないと言えばわかりやすいか。商船の一航士としては船種がかなり限られるだろう感が否めない人だった。だからこそ、職場を奪われる危機感からだろうか、引継ぎ簿を渡してくれない、会社に悪意ある報告をするなど、数々の意地悪をされたなあ。内航船ではこういった人が少なくない。

荷役事務室に入ると、なにやら見慣れない表がパソコンの横に掲示してある。
左欄縦に、Hatch No.と容積。それから右にFull、80%、70%、50% などとあって、その交錯するセルに容積とハッチコーミングから(上から)何m隙間がある。みたいなことを書いてある。S/Fを明示していない。私が不思議そうに見ていると、その偉いお方は、
「本船は、2種類の貨物しか積まず、それらの比重は”1”として計算してあります。」
と、ドヤ顔でいう。
え〜〜〜っ!? なんやそれ?
比重1ならCapacityに%掛けとるだけやんケ。この貨物で比重1のはずがないやろ。ていうかここで比重て・・・。次々に疑問がわいた。
知らぬが仏というか。。。ストウェージファクターの知識がない一航士に「サードからやれ」と言われた私の気持ちは、想像するに難くないだろう。

比重の単位はg/cm3で、これをトン換算して t/m3 と書いても間違いではない。一方、ストウェージファクターの単位はFt3/LTで、メトリックトンで書くとm3/tということになる。似ている?(笑) 単位が逆数となっている。比重が1というなら、ストウェージファクターも1になるから良いではないか、と言われる? しかし、上記の場合の積載貨物は残念ながら、
*FLY ASH DRY S/F 1.26(m3/t) by IMS BC code
で、絶対に比重1ではない。従って、比重=積付係数とならない。
あなたがサードからやり直しなさい! ていうかチーフは無理です。自動車船くらいにしなさい。

さあ、本題に入ろう!
比重とは標準物質(水)との密度の比である。水よりどのぐらい軽いか重いか。以下にストウェージファクターを説明していくが、比重(Specific Gravity)と、積付係数(Stowage Factor)の考え方が如何に異なるかを把握しないと利用できない。荷役事務所に入ってくる人は、フォアマンや代理店、船社、サーベイヤーなど、その道のプロである。貨物関連で比重などと掲げて恥をかかないよう気を付けたい。

積付係数 ストウェージファクターとは、
1. 1LT(long ton)を積載するのに要する船倉内容積をft3(立法フィート)で表した数値
  (単位ft3/LT) 1LT=1016kg=2240lbs
前述にもあったが、または、
2. 1MT(metric ton)を積載するのに要する船倉内容積をM3(立法メートル)で表した数値(単位M3/MT)
の2種類がある。
整数で出されたS/Fはまずもって1.の(ft3/LT)と思って間違いないが、念のため単位を確認してほしい。ごくたまにft3/MTとされているときもある。

・S/Fは、小なれば重く。Lower Holdだけで満載してしまう。
 (鋼材10〜20ft3/LT)
 Steel Sheets 18〜20、billets & bar 12〜16
・S/Fは、大なれば軽い。ハッチ口までいっぱいに積んでもD/Wまでこない場合もある。
 (穀物 45〜60ft3/LT)
Wheat in bulk 44〜49、Maize 47〜52、Soybean meal 54〜60
単位確認をすればわかりやすい。
1LT=1.016MT(metric ton) 1MT=1000kg
1容積トン(measure ton)=40ft3=1.1327M3
(MTはメートル法で表した重量単位目metric tonを表していて、measure tonの略号としては使わないので注意してください。)

S/F活用法(初心者編)を説明しよう。
@ S/F80の貨物があったとしよう。これを1500t積載するスペースは何M3必要か?
 1500t ÷ 1.016 = 1476 LT
 1476LT x 80 ft3/LT=118080ft3
 118080ft3 ÷ 40ft3 = 2952 measure ton
 2952 x 1.133M3 = 3344M3
または、
 80 ft3/LT=2.230M3/MT (80x1.133 / 40x1.016)
 1500MT x 2.230=3345M3

A 以下のHoldにS/F 45(ft3/LT)の貨物を満載すると、何MT積載できるか?
 満載できる貨物重量 = Hold 容積 / ストウェージファクター
・Capacity Planには以下のように書かれている。

Cargo Hold       (Grain)

Name

Capacity (M3)

Capacity (Ft3)

No.2

Hold

26,847

948,108


ストウェージファクターとHold Capacityの単位を合わせれば極簡単に計算できる。
1) 本題のS/Fはft3/LTで示されているから、迷わずCapacityは(Ft3)を選ぶ。
2) ホールドのブロークンスペースを考慮した最大積付け量を仮に容積の98%とする。
 948108ft3 x 0.98 / 45 ft3/LT= 20647LT 
 (Ft3は分子/分母で消去されLTが単位として残ります。)
 20647LT x 1.016 = 20977MT
どうしても 26847M3を使用したいという頑固な方は、ストウェージファクターを換算しなければならない。
  S/F = 45(ft3/LT) x1.133(M3) / 40(ft3) x 1.016(M3) = 1.2545 M3/MT
  26847 x 0.98 / 1.2545 = 20973MT
(1の位で誤差が出ているが換算するときの小数点の取り具合である。)
また、船によっては、立法メートルでしか書かれていないCapacity Planもあるから、S/F(ft3/LT)で来た場合は、逆にホールド容積をft3換算しなければならない。
1容積トン(40ft3)=1.1327M3 → 35.32ft3=1M3なので、M3表示に35.32を乗じてft3を求める

容積トン話の延長で!
海上運賃、港湾運送事業(荷役料金等)ともに、容積、重量のいずれか大なる方(重量が大きいと「重量勝ち」、容積が大きいと「容積勝ち」という)を計算基準=RT(Revenue ton)としているが、重量は1000kgを、容積はM3/1.133M3(1容積トン)を1t としてみなしています。
簡単な例を揚げましょう。
ある貨物の重量が1tで大きさが2m x 2m x 2m(8M3)だったとします。この場合は、
重量1t < 容積8M3/1.133
となり、8M3が容積勝ちのRTで、8M3/ 1.133 x 基本料金=運賃または荷役料金
という具合です。

ストウェージファクター応用編
S/Fの違う貨物を積みつける。
在来船では、船倉と喫水を共に満載するのが採算を最も上げる積み付けである。上手な営業とプランナーが組めば、双方85%以上の積付けを達成することも可能だが、どちらかが下手だと、そうはいかない。極端な話、Lower Holdに重量貨物の鋼材だけを100%積み付けて、Lower Hold上部はおろかTween deckもガラ空きでニカーッと笑っている。相当運賃が良いなどの特殊な事情があれば別だが、普通それでは儲からない。

重量貨物と容積貨物の最適積載量は計算で概略求めることができる。
AのS/Fをa、BのS/Fをbとする。
最大積載重量(Dead weight) D (t)= A(t) + B(t)
Holdの全容積 C(m3) = (A x a) + (B x b)
とした場合
B(t) = C - (a x D) / b-a
A(t) = D - B
が成り立つ。

(例)
載貨重量トン(Deadweight)が23550tで、Bale Capacityが26800M3の船にBillet (S/F 0.30m3/t )とCKD:Car Knock down(S/F 3.30m3/t)を混載する。重量&容積を満たす最適量はいくらになるだろうか?
CKDの積載量=26800 - (0.30 x 23550) / 3.30 - 0.3 = 6578(t)
Billetの積載量=23550 - 6578 = 16972(t)
6578 + 16972 = 23550(t) ← Dead weightの100%
これに匹敵する容積は、
CKD = 6578 x 3.30 =21707.4(m3)
Billet = 16972 x 0.30 = 5091.6(m3)
21707.4 + 5091.6 = 26799(m3) ← Bale Capacityの100%
これが、双方を満たす究極の積載方法となるわけだが、集荷状況がこれだけ整って貨物を積載できることは奇跡に近い。しかしながら、在来船においては、重量と容積を効率よく積みつけることを忘れてはならない。

(悪い例)
1)CKDの積載量=3550(t) →11715(m3)
 Billetの積載量=20000(t)→6000(m3)
 重量はDead weight100%となっているが、容積は17715/267800=66%となっている。
2)CKDの使用容積=25080(m3)→7600(t)
 Billetの使用容積=1710(m3)→5700(t)
 容積はBale Capacityのほぼ100%となるが、重量は13300/23550=56%となっている。


載貨重量トン(Dead weight)
Dead weight = Full Load Displacement − (Light weight + 手持ちon hand)
制限されるDraftによって、貨物に使用できるDisplacement(排水量)は決まる。満載喫水線に当たるDisplacementがFull Load Displacementであるが、それから船の自重である軽荷重量Light weightとon hand(F.O.、 D.O.、 F/W、 Ballast、Constant)を引いた数字が最大積載量たる載貨重量トン(Dead weight)となる。


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