元請の憂鬱と大罪U
(荷役上の貨物損傷事故による損害賠償について)

われら海族 HOME


パレッタイズ(63ct/PL)のレモン揚げ荷役途次、荷役用ゴンドラが本船のハンドレールに接触したことにより、4PLのレモンを転倒落下させる事故が起こったとします。(以下、筆者の危惧を含めた仮定で話しを進めます。)

当然弁金問題が発生します。
元請であるA社はこの責任をA社の実質下請けである港湾作業会社B社の単独のものと判断し、その旨を通告しB社は了承、当該荷役保険にて処理したいと申し出た。

ここまではよくある話だがここからが問題です。
元請A社は事故事実を荷主に報告せず内密に処理(事故が多いと営業的にしんどい)をしたいと考え、荷主C社と取引のある卸売業者D社に頼み、事故品全てを購入させた。D社は正品であろうがダメージ品であろうが利益を得て品物を右から左に流せば良いのだから何の問題もない。この時点でダメージとなった品物は元請倉庫から一歩も動いていない(後にダメージ品は通関し廃棄)が、金銭と書類の授受により商売として不足なくなりたっている。元請A社は荷主にばれずになんとか方をつけたということになる。法律上も問題ないだろう。

しかしながら、ここで皆さんは気付かれたでしょうか?
元請A社はレモンを荷主C社から購入していない。ということは荷主C社+卸売業者D社の利益分を補填してレモンを購入したことになっています。
ところが、荷役業者B社は保険で処理することとしているため、当然それではインボイス価格(今回の貨物はCIF)しか求償されません。
インボイス価格と市場価格では大きな差があります。
そこで、元請A社はその差額の全てをを港湾作業会社B社に穴埋めさせようと企て模索します。しかし、根拠がない。
「港湾の慣習」、「荷主の利益分を事故当事者が補うのは当然」、挙句には「社間の力関係が作用するから」など訳のわからない理由を並べてもB社が納得するはずもありません。
1CT、2CT を潰した弁金だと言うなら、それこそ社間の力関係を多少考慮してB社も目をつぶることもあろうが、63CT/PL*4=252CT ときた日にゃ叶わない。全額になると当日の荷役料金にも迫る額となるためだ。

保険求償と支払請求の差額にかかる見解の不一致はA社とB社間で平行線を辿った。そこで港湾作業会社B社より、質問及び要望が乙仲A社に提出された。
1. 賠償額がINVOICE価格となっていない。
   ・間接損害や逸失利益までを賠償対象とするのは相当でない。
   ・その明確な根拠となる法律または約款の提示をお願いする。
2. 弁償金がB/Lに記載される荷主の請求書となっていない。
   ・INVOICE価格以外の部分で利益供与が発生しているのではないか。
   ・隠蔽工作によって賠償額が高騰したのではないか。
3. 元請責任の明確化
   ・許容範囲の設定
   ・損害の元請負担(例:一律30%、または営業面から負担しなければならない部分)
   ・荷主に対する賠償軽減の交渉。
   ・事例及び金額によっては荷主の貨物海上保険で求償せしめる。
    (免責額は事故当事社が当然負担する)



さて、それでは解説していきます。
一般港湾運送事業者と港湾荷役事業者との関係の中に、厳密な損害賠償の額や限度を取り決めた約款等はほとんどなく(まずこれが問題なのだが・・・)、港頭地区での慣習として損害の実費請求を基礎としている場合が多い。しかし、これら貨物の移動・運送に関わる事故(故意及び人身を除く)は、れっきとした商行為であって、民事または商法の範疇に規定されると考えられるため、それらが及ぶところとして方向性を見出していく。
まず、国際海上物品運送法は以下のように規定される。ただし、この法律にかかる運送人とは船会社を示すものであるが、荷役が物品運送を一環とした一部分に位置する事から、これを準用できるものとして参考とする。
(損害賠償の額)
第12条の2  運送品に関する損害賠償の額は、荷揚げされるべき地及び時における運送品の市場価格(商品取引所の相場のある物品については、その相場)によつて定める。ただし、市場価格がないときは、その地及び時における同種類で同一の品質の物品の正常な価格によつて定める。
2  商法第580条第3項の規定は、前項の場合に準用する。
(責任の限度)
第13条  運送品に関する運送人の責任は、一包又は一単位につき、次に掲げる金額のうちいずれか多い金額を限度とする。
一  一計算単位の六百六十六・六七倍の金額
二  滅失、損傷又は延着に係る運送品の総重量について一キログラムにつき一計算単位の二倍を乗じて得た金額
2  前項各号の一計算単位は、運送人が運送品に関する損害を賠償する日において公表されている最終のものとする。
3  運送品がコンテナー、パレットその他これらに類する輸送用器具(以下この項において「コンテナー等」という。)を用いて運送される場合における第1項の規定の適用については、その運送品の包若しくは個品の数又は容積若しくは重量が船荷証券に記載されているときを除き、コンテナー等の数を包又は単位の数とみなす。
4  運送品に関する運送人の使用する者の責任が、第20条の2第2項の規定により、同条第1項において準用する前3項の規定により運送人の責任が軽減される限度で軽減される場合において、運送人の使用する者が損害を賠償したときは、前3項の規定による運送品に関する運送人の責任は、運送人の使用する者が賠償した金額の限度において、更に軽減される。
5  前各項の規定は、運送品の種類及び価額が、運送の委託の際荷送人により通告され、かつ、船荷証券が交付されるときは、船荷証券に記載されている場合には、適用しない。
6  前項の場合において、荷送人が実価を著しくこえる価額を故意に通告したときは、運送人は、運送品に関する損害については、賠償の責を負わない。
7  第5項の場合において、荷送人が実価より著しく低い価額を故意に通告したときは、その価額は、運送品に関する損害については、運送品の価額とみなす。
8  前2項の規定は、運送人に悪意があつた場合には、適用しない。
(参照:2004/9/22現在の1計算単位SDRは1.465454USDです。)

一方、商法では
第580条 運送品ノ全部滅失ノ場合ニ於ケル損害賠償ノ額ハ其引渡アルヘカリシ日ニ於ケル到達地ノ価格ニ依リテ之ヲ定ム
2 運送品ノ一部滅失又ハ毀損ノ場合ニ於ケル損害賠償ノ額ハ其引渡アリタル日ニ於ケル到達地ノ価格ニ依リテ之ヲ定ム 但延著ノ場合ニ於テハ前項ノ規定ヲ準用ス
3 運送品ノ滅失又ハ毀損ノ為メ支払フコトヲ要セサル運送賃其他ノ費用ハ前2項ノ賠償額ヨリ之ヲ控除ス

国際海上物品運送法に掲げられた運送品の市場価格 または、商法に規定される到達地ノ価格ニ依リテ之ヲ定ム は少々曖昧であり、そのおかれた立場によって解釈が分かれるが、
国際海上物品運送法を規範としてかわされる運送約款においては、運送人が、本運送証券の下で、賠償責任を負う場合の請求金額は、荷主の送り状価額に支払済の運賃及び保険料を加えた金額を基礎に調整されるものとして、いかなる場合も、運送人は利益の損失やそれに基づく損失に対して一切の責任を負わない。ということが明記されて通例とされる。(ただし、貨物の到着地の価額又は損害額について争いがあるときは、公平な第三者の鑑定又は評価によりその額を決定する。)

ここにA社がB社に求めた賠償金の話をからめて少々ややこしくしてみよう。
例えば、本船クレーンのワイヤーが切れたために吊り下げていた荷物を落下させダメージを与えた場合。「船は荷役会社オペレーターの操作が悪かったのではないか」「ワイヤーは検査を受け先月取り替えたばかりだ」とクレームをつけ、荷役会社は当然本船の整備不良を訴える。で、双方サーベイヤーに一件を委ねた結果、(こんな裁定になるかどうか確証はない。仮にである)船会社側と荷役会社側の折半で弁償することになったとしよう。この時、船会社は上記の通り、INVOICE価格のみでしか支払わないのに、一方、荷役会社には荷主の利益を含んだ市場価格で算出するのか? という矛盾が生じる。

また、CIFで荷送人及びFOB荷受人がかける貨物保険について、保険求償できる金額はCIF価額(船積み原価+保険料+運賃)に、通常は国際的な商慣習として10%を加えた金額で設定されている。
このことから考えても、一般港湾運送事業者と直接の当事者たる港湾荷役事業者の
損害補償は、契約金額(INVOICE価格+当該荷役料金)を上限とし、通常かつ直接の損害についてのみを補てん額とするのが尋常であると言え、逸失利益までを賠償対象とすることに懸念を示した港湾荷役会社B社からのクレームは妥当であると考えられる。

したがって、現状において損害賠償に関する約款を提示していないA社は、B社に対し自らが合理的な損害限度を設けなかったところに落ち度があるように思われる。

次に荷主が加入する保険についてであるが、
今回の貨物が全てCIFであったことから、貨物に海上貨物保険が件かけられていたことは必至であって、それらはオールリスク、分担担保条件等のいかんに関わり無く、その保険の有効期間は、貨物が保険証券記載の仕出地の倉庫その他の保管場所から搬出された時に開始し、仕向地にある最終倉庫その他の保管場所に搬入された時に終了することになっているはずである。つまり、積込み、荷卸しまたは積替え中の貨物の墜落・横転による一個毎の全損に起因する損害は求償範囲である。したがって、乙仲A社が隠蔽工作を施さず、荷主にありのままを話せば、それらは容易に担保されたのではないかと指摘されても反論の余地はない。
「そんなことを荷主に言えば船が来なくなる」などの聞き飽きた伝家の宝刀はあまりにも低俗で、これらの愚行も好景気の場合において許されたであろうが、現在となっては営業的能力欠如や手腕のなさを裸出した単なる逃げ口上に過ぎず、法律的根拠やその他確実な裏打ちがない漠然とした発言は、全く説得力が無い。「ならば、営業的リスク(差額)は元請たるA社が負え」という論法が成り立ってしまいます。

元請け責任を回避し、損害賠償の全ての責任を港湾荷役事業者のみに押し付けることは不当かつ理不尽であると判断することが無難である。
また、
「私的独占禁止及び公正取引の確保に関する法律」(いわゆる独占禁止法)の”優越的地位の濫用”に抵触するおそれがあることも付記しておきます。
(ついでに・・・・・公正取引委員会は独占禁止法第2条第9項の規定に基づき、「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法(特殊指定)」を公示し平成16年4月1日から施行されています。これにより、代金の支払い遅延、減額、買い叩き、購入強制、無償労働の強要(サービスの過剰要求を含む)などが規制されることとなった.。
今後は荷主の横暴が厳格に咎めらるという具合ですが、同時に乙仲の中にも今尚下請け関連事業等に責任転嫁する卑怯な手だてを使う会社があるならば、当然改善されなければならないところにきている事を、深く認識する必要があると言えます。)

これらの観点から、事故についてはINVOICE価格(CIF)を基本として賠償することが妥当であり、それ以外の営業的補填部分については、関係人が相互間において承認できる損害賠償の合理的限度額を事前に設けておく事が必要であると考えられる。(ない場合は諦める方がよい。それ以上を望めば優越的立場からの強要になる可能性も有り得る) またもう一つの方法は、事故による損害の求償を INVOICE価格以外のものまで包括するような保険に切り換えるものであるが、これはそれ相当の加入金額高騰のリスクを負わなければならないことになります。


※使用されている写真と本文は一切関係ありません。

元請の憂鬱と大罪 T

  作者著書