新喫水とトリム変化量の計算
われら海族 Index
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新喫水 d’(m) = d + w / 100TPC ± (Lpp/2 - , + Mid.F / Lpp ) x (+,−)w l / 100MTC これはある喫水のときに貨物を積載し、その後の新喫水を求める公式だ。航海士なら誰でも知り得る式である。二級海技士の国家試験にもよく出題される。トリム計算はここにしっかり書いてあるじゃないか。 しかし、一航士の仕事として実際には、Loading Calculationソフトに draft を入力するだけで処理でき、いまどき手計算されることはまずないから忘れたのか? いや最初から意味がわかっていないのだ。 上式は、平行沈下量から計算して、それにトリム変化量を足すというやり方だが、本来は順番が逆だ。トリム変化量から考えていった方が理解しやすい。説明は後述する。但しだ・・・、 荷役中の航海士がワッチ中、日常的に頻発するケースと言えば、バルク貨物のフォアマンに、「1番ハッチから浚えをやりたいので、残り量を先に今日全部揚げてよいか良いか?」など訊かれることだ。トリムは大丈夫か? 不都合はないかという意味だ。(新喫水を訊いているのではない) テーブル(表)の題名は色々ある。Trimming Diagram(Loading Weight=100t) や、Table for Fore and Aft Changes in Centimeter by Loading unit weight 100MT などで示されている表を活用してトリムを求めることもできるが、「ちょっと待ってくださいよォ」などと言ってフォアマンと荷役事務所に戻り、パソコンに向かい合わなければ見当がつかないでは、いかにも格好が悪い。素人同然だ。 最近、内航船乗りにおいてもなんのためか知らんが、二級や一級をとってくる航海士が多い。大型フェリー会社のように社内規定で船長への昇格条件とされているなら仕方ないが、5000tやそこらの内航船にしか乗らないなら意味がない。箔が付くと思っているならとんだお門違いです。どこかのページでも書いたが、二級にしろ一級にしろ、あんなもんは一遍や二遍船に乗った人間なら、100時間ほど勉強すれば誰だって通るごく簡単な国家試験であるというのが、我々商船卒の認識である。(学生のうちに一級までとるような方なら多少値打ちはあるが、それにしても早慶生に100万円やるからとってこいと挑戦させたら、言わずもがなだと私は思う。) それよりも、「二級持っていてこんなことも知らんのか」、「これで一航士か」と卑下されることにつながりかねないので気を付けて欲しい。私が乗った内航船の一航士もそんな感じの人が多かった。ときどきびっくりした。 上述式は勿論知っているのだろうが、全く使いこなせていないのである。見栄のために必要のない国家試験に時間や金を費やすより、一航士としての実力を上げるべきだ。 |
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さて、話を戻そう。 1)ことトリム変化量だけを求められることに対応するには上述公式後半部の Trim変化量 = wl/ MTC w :貨物またはバラストの重量 l :Midship Fからの距離 By the stern になる時は(+) By the head になる時は(-) だけでよく、普通レベルの航海士ならば、これでチャチャっと暗算する。 MTCは日本語で「毎センチトリムモーメント」という。なんのこっちゃ?と思う。 しかし、英語で書くとわかりやすい「Moment to change Trim one Centimeter」 という。「(意訳)1cmトリムを変化させるために必要なモーメント」である。船はMid F(浮面心)を軸に回転運動をしているのだから、モーメントがわかれば、それをMTCで割るとトリムが算出できるということになる。モーメントは「力(即ち重量)x 長さ」だなあ。 これを理解せず公式だけ覚えても、試験は解けるが現場で役に立たないということになる。 ほとんどの船はBy the Sternで、Bending StressもShearing forceもまず問題ないことが多いが、それでも無制限ではない。Trim 〇〇mで危ないというものは把握しておいて、計算結果がそれに近い場合には一航士(こいつがわかっていないことも多いが・・・)に相談する。 そのためには、まずメモ帳などに以下のよう書き写しておくとよい。 |
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LadenのDraftが8m70cmとして、H/No.1から 2300t揚げたときのトリム変化量をフォアマンに訊かれたら。 @ トリム変化量=2300t x (LCG28.7 + Mid F(3.28))/ 190.87=385cm となる。 「少しおおきいなあ。」と感じ、DeepをFull(366.6t)にするなら、 Aトリム変化量=385 - 366.6t x (LCG52.91+Mid F(2.15))/179.59=153cm 戻せるということになる。 ね、簡単でしょ? *@とAのMid Fの違いは、2300tをTPCで除して適当量を出しただけ。トリム変化量の計算は、新喫水計算とは異なり詳細を求められていない場合が多く大雑把でよい。それよりも、是か非かの判定を早くフォアマンに回答することに重きがある。 ここでさらに、 船首変化量を求めたい場合は、 wl / MTC x f / Lpp (f は船首からmidshipFまでの距離:Lpp/2-,+Mid.F) 船尾変化量を求めたい場合は、 wl / MTC x a / Lpp (aは船尾からmidshipFまでの距離) これに平行沈下量を加味すれば、本項冒頭の新喫水を求める式になります。 *LPP = BP(Length between perpendicular)垂線間長 |
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2)任意状態における船のトリムを計算する場合。 船体、貨物艙、Ballast tank等それぞれのweightにMid Gを掛けた長さ方向のモーメント総和を排水量で割ったものが、船の任意状態における全体のMid Gとなるから。 トリム(m) = D 排水量 x (Mid.G - Mid.B) /100 MTC Mid.Bは排水量等表による。 参考 Midship G = LCG(the Longitudinal Center of Gravity) Midship B = LCB (the Longitudinal Center of Buoyancy) Midship F = LCF (the Longitudinal Center of Floatation) |
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ドラフトを見る習熟訓練は必要だ。チーフが見るのとサードが見るのどの程度違って、それがトン数にどのように反映するのか? 知っておかねばならない。 しかし、もの好きというか、悪趣味というか、コンディション計算を三航士や二航士に毎航手計算でやらせて悦に入る一航士をときどき見かける。シアリングもベンディングモーメントも計算できないくせに。できたからどうだというのだろう? 瀬戸内海をレーダーなしで航海練習させるのと同じくらい意味がない。式は学校で習っているし、計算などはエクセルが間違いなくやってくれる。何度もやらせるな、時間の無駄だ。 それよりも、ここに書いたようなことを出し惜しみせず教えてやれ。よっぽど役に立つと、私は切に思う。 内航船に乗ってるとき、「あいつらはこんなことできないだろ?」などと発展途上国の船員をバカにするようなことをよく聞かれた。そのときは言葉を濁したが、ここではっきり言っておきたい。一部を除き、とっくの昔に船員の技術・能力は外国人船員に追い越されている。 昭和50年代ではない。いまどき上記をわからなくても一航士をさせてくれるのは日本ぐらいだと思ってもらった方が身のためだ。私の知る限り、優秀な外国人船員は多い。 |
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