5. 長尺物の荷役(Crane間の中貫き)
われら海族 HOME
Crane間よりも長い貨物(長尺物という)をTANDEMで吊り上げた舷から反対舷に積載する場合には、まず貨物の頭を先に入れてから振出して、その後、尻を躱して行くというイメージです。または、この逆に積載舷から反対舷に持っていき荷揚げする場合も同様に行える。これを中貫き(中抜き)という。英語では、その貨物の動きから
Snake in (Snake out)というようだ。 重量物船ではこういった荷役作業を避けられません。よくあります。 |
||||||
|
||||||
|
||||||
下の@〜Fは揚荷の手順です。 |
||||||
|
||||||
私は中東のある港で、貨物受けのポートキャプテンとして1年間駐在していたのだが、その時のことである。 50m強の長尺物をondeck両舷に積んで来た船があった。着岸舷側はすんなりお膳で下ろしたが、反対舷側は、クレーン間を縫うように通さねば揚げ荷できない。所謂"中抜き"である。 貨物の長さは50mで、クレーン間が約32m。貨物の幅、高さが7m、重量も100t程度だからイージーだなあと思っていたが、船長が、 一旦船を離し、回頭して右舷付けに着け直してから残りの1基を下ろすと言ってきた。 まず、図2を見てもらおう。長さが65mであっても十分やれた。
では、この船で同様の貨物なら何mまで中抜きできたか説明しよう。 図には、150tで吊る場合のWorking Limit Lineを示してある。Craneの中心から26mの位置がそれで、そこから Craneの構造物に当たらない距離が、貨物のLifting Pointから貨物端までの水平距離ということになるのだが、 作図上は20mである。<20m+Lifting Point間+20m=貨物長さ>となって、このLifting Point間がわかれば、中 抜きできる最大長さがわかる。No.2CraneとNo.3CraneのWorking Limit Lineの船首尾間距離は、56m-20m=36mであること から、20m+36m+20m=76m と、言いたいところだが、中抜きするときに斜めに入って行くため、その分を考慮しなけ ればならない。 今、作図上で仮にLifting Point間を25mにしてある。すると、No.2のWorking Areaにまだ余裕があることが わかる。(斜線のある部分がLifting Point)約8mぐらいだろうか? 20m+25m+8m+20m=73m 幅&高さ7mだと、この長さまでは中抜きできることが 図面から読み取れる。ただし、その場合は、Lifting Point間が33mでも貨物自身の強度がもてばということであるが。 何度傾いてクレーン間の中へ入って行けるかが問題なのだが、ざっとしたものは、計算でも求めることができる。 θ= Sin-1(径(幅)+ 半径 / ハッチの長さ)= 34° 56m x Cosθ + 20m = 52m + 20m = 72m (マージンがあるので、こちらを採用しましょうか) 私なら、68-70m前後でこの船長と同じように躊躇したと思う。議論の余地を残すということだが、 計算上72mでいける物を、50mでやれないとは普通言えない。この割合を、重量で換算するなら、150tCRANEで、105tだから吊れないと言ってるのと同じことで、通常なら船長交代matterです。 この船長の意見(船を一端離岸し、回頭させて着岸舷を変えて揚荷する)が妥当だと運航者が認める貨物の長さは、70mだったとわかって頂けたと思いますが、 では幅/高さの限界はいかほどだったでしょうか? それが図3です。
高さが増せば、CRANE BOOMのねきより中央部近くで当たり、幅が増せば中抜きの角度が鈍角になってゆくので、 限界点が見えてくる。径10.5mで、Lifting Point〜貨物端が17m(元の貨物の寸法と同じ)でないと通過でき ないことから、10mが限界ではないかと推測できる。しかし、本船においては、径が8m以上となると舷外に 貨物が出ることからそもそもそういう貨物は積まないので、幅/高さ8mが限界ということになる。 兎に角、当該貨物(50m x 7m x 7m)は、通常の乗組員に通常の技術があれば、中抜きをやれたという結論になります。 やらなければ事故は絶対に起こらない。正解です。しかし、経済性を考えずに安全だけを考えるのは賢明ではない。 餅は餅屋! 一月三舟 一寸の虫にも五分の魂。 あなどってはいけません。悔しかったなあ。 |
||||||
関連ページ 重量物荷役のポイント(GIFアニメ) 吊仕様 LIfting Plan 甲板強度 Deck Strength 重量物の保定 |
||||||