結露の発生と防止

われら海族 Index


鋼材や穀物などの海上運送で絶対に忘れてならないのが結露(Condensation)である。結露は鋼材の錆や、穀物のカビなど貨物のダメージにつながります。

「鹿島(茨城県)より南で積んだ鋼材に結露は起こらない。」
と、某有名大手内航船社の海務の方が言っているのを耳にした。結露の南限が鹿島とは非常に興味深い説です。根拠が気になったので耳をそばだててさらに聞いていた。
「夏に冷蔵庫から冷えたビールを出すと瓶に水滴が付く。あれが結露だ・・・」
などと、真顔で部下に説明している。。。たから、困り顔の部下の代わりに言いますが、
「そんなことは知っている。」
部下が知りたいのも私が聞きたいのも、なぜ結露が起こるかなのだが、核心には触れてくれなかった。

水蒸気を含む空気(通常の空気)の中に置かれた金属を冷やしていくと、金属の表面に露(結露)が付き始める。その時の金属の表面温度を露点温度(Dew point)というが、周囲の露点温度より金属の温度が低いとき結露する。
湿度が高くなると、露点温度も高くなるので、その中にある金属が一定温度でも結露しやすくなるというわけです。
以下に例を示す。
温度 湿度 露天温度 備   考
25℃ 50% 14℃ 金属の温度が14℃以下で結露する
25℃ 80% 21℃ 金属の温度が21℃以下で結露する
20℃ 50%  9℃ 金属の温度が 9℃以下で結露する
20℃ 80% 16℃ 金属の温度が16℃以下で結露する
* 露点温度を求める公式や、湿り空気線図もあるが、温度と湿度によって表(露天温度表)から求めるのが簡単でよい。

積荷前のCoil(結露が特に問題となる貨物)はミルポートの倉庫内に収められているか、もしくは(短期的に)野積みされていたりもする。冬場、西日本の平均気温でも2℃〜8℃くらいなので、これらCoil等鋼材を積んで南方へ下ると、以下のようなメカニズムで結露の発生につながる
@ 船が日本を出港し、南に下ると2日もすれば、外気は高温多湿となる。
  温度4.0℃ 湿度78%  / 露天温度1.7℃ Coil表面温度2.0℃ 
A 艙内環境は温度(外板を通じて作用する)・湿度(ダンネージ/ビルジ等の影響)ともに上昇してゆく。
  出港後2日 温度8.0℃ 湿度87%  / 露天温度6.0℃ Coil温度6.0℃
B 艙内温度が上がれば、Coilの温度も上がるが、艙内環境は温度・湿度ともに日々変動するので、Coilの温度が露点温度より下回ったとき発汗(結露)する。
  出港後7日: 温度21.0℃ 湿度91% / 露天温度19.5℃ Coil温度19℃(発汗)


以前に豪州航路で。
ある冬場に日本積みしたCoilを豪州向けに運送したとき、メカニカルベンチレーションで外気を入れ続けた結果、ビルジを引いても引いても引き切れなくなった。結果、豪州に到着した時にはホールド内に10cmも水が溜まっていたということがあった。
これは、Coilの温度が上がらないうちに、海上で露点温度の高い空気を入れたためにmaxに発汗してしまったとの検証結果を得ている。風を当てると乾く、または温度(のみ)を上げて乾かそうなどの発想は危険です。露点温度を把握することが非常に重要です。

温では湿度が高いほど露天温度も高くなることは説明したが、よく誤解されるのが、単に「Hold 内の湿度が外気の湿度より高い場合」にベンチレーションする」ということだ。
例えば、Coilの表面温度が16℃のとき、
Hold内温度 18℃ 湿度90% = 露点温度16.3℃
で、発汗が始まったとしよう。
外気  温度 22℃ 湿度80% = 露点温度18.4℃
なら湿度は艙内より低いが、外気を入れてはならない。外気の湿度がHold 内のそれを下回っていても露点温度が艙内より高く、ベンチレーションすればHold 内でCoilにさらにひどく結露する。

次に温度に関し説明しよう。冷蔵庫のビールを・・・で示したように冷えたものを高い空気に触れさせると結露するという誤解も危険だ。例えば、船倉内でCoilが18℃だったとき
Hold内 乾球20℃ 湿球19℃ (湿度 91%) 露点温度18.5℃
で、結露が始まったとする。
外気   乾球26℃ 湿球21℃ (湿度 58%) 露点温度17.0℃
なら外気の方が温度が高く、上記に関連しベンチレーションすればいかにも結露するように思われる。しかしながら、この場合外気を入れても理論上結露しない。Coilの温度が外気の露点温度より高いからである。(まず海上では乾球&湿球の差がこのような状態にはならないでしょうけど)
兎に角、このようにベンチレーションは温度とか湿度とか一方で決めてはいけない。

結露防止に最も有効なのは、Heater Unit + Dehumidifier(除湿機)を使用し、船倉内を密閉して高温低湿の乾燥した空気を循環させることです。例えば、船倉内温度を29℃まで上げ、湿度を78%ぐらいまで下げることに成功した場合、露点温度は25℃となる。このときCoilの温度は27℃(通常Coilの表面温度は艙内温度より少なくとも2.0℃低い)ぐらいになるので、結露は付かない。
(除湿機を設置し、上記のようにすれば確かに航海中は結露しない状態を維持しやすい。ただし、忘れがちなのは、揚地に到着してハッチを開け一気に露点温度の高い空気を入れてしまえば、やはり結露する。十分に貨物の温度が上がっていなければならない。航海中のせっかくの努力を水の泡にしないようにして下さい。)しかし、Dehumidifierの最大の欠点は設備投資がいるということだ。船にこのような機械を設置するのはコスト的に高くつく。

では除湿機がない船は、どういう対処がよいかという話になる(ほとんどの船がこれ)
結論から言えば、海水温の上昇につれてHold内の温度も上昇するが、これに伴いCoilの温度も徐々に上昇するので、Holdを密閉したまま航海する方がよい。
1)Coilの表面温度は、周辺温度(乾球温度)より少なくとも2℃低い。(実証実験結果より)Coilの表面温度を測定することは通常不可能であるため、これにより推測する。
2)通常「Hold内露点温度 > 外気露点温度」の場合(冬場に日本から南下する場合はなかなかこういうコンデションにならない)は、ベンチレーションを回し外気を取り入れてよい条件とされるが、Coil(金属)表面温度が外気露点温度より下回る場合は、「Hold内露点温度 > 外気露点温度」であっても、外気を流入させれば発汗するので注意せねばならない。
3)その目安は、
 周辺温度10-30℃のとき、
・湿度90%の条件で、露点温度は、そのときの乾球温度より1.5-1.8℃低くなる。
 (この場合はCoilの表面温度の方が更に低いので、既に発汗状態であると言える。これには乾燥・除湿装置で対応する以外としては、密閉放置しウエスでwipe upしつつ、 Coil温度が上昇するのを待つ他に手段がない。)
・湿度85%の条件で、露点温度は、そのときの乾球温度より2.4-2.8℃低くなる。

これらを総合的に考慮すれば、航海途路Hold内は湿度が90%を超すことが常であるため、実測できない場合は、より温度の低いCoil表面温度を採用(想定)し、それと外気の露点温度を比較してVentilationの可否を決定すべきものである。
よくわかってない荷主などからは
「徐々に外気を入れてHold 内を揚地の状況に近づけていったらどうか?」
などの意見がある。外気の露点温度が高い場合は、騙し騙し入れても必ず結露する。航海中に日々結露させるか、着岸後一気に結露させるかの違いだけで、結果は同じである。(船会社の立場から言えば、後者の方が責任上ベターと言えなくもない。)なので今のところ、機を逃さず外気の露点温度がHold 内のそれを下回るときを選んで積極的に換気することが、Total 的に結露を最小限にとどめることのできる最良措置と言えます。
具体的には、冬の航海で艙内の露点温度の方が小さく、外気の露点温度を超えない状態が継続して南半球(インドネシア等)まで到着することが多いので外気を入れない方がよく、夏場は適宜ベンチレーションを要するエアーコンディションが度々生じる。

さらに夏場の南半球でバルクカーゴを雨中荷役して貨物が濡れた場合も結露の危険がある。
結露は冬場だけではない。温かいところから北に上っても結露は起こるのです。
タッパーにはいった温かいご飯を冷蔵庫に入れるとどうなるだろうか? タッパー内に水滴が大量に付着します。タッパー内で水蒸気を含む空気が冷却され凝結が始まったからです。つまり結露ですね。そう、タッパーが船で、冷蔵庫内が北上した冷たい海です。
船倉の中にある大量の水蒸気を含む温かい空気は、北上する過程で冷やされていく外板内側や貨物に結露します。
艙内(貨物)温度が26℃で湿度が90%でしたら、24℃が露点温度になります。海水温が20℃以下などの海域を航行すれば外板は24℃より下がる可能性があるので要注意です。
ここまで説明すれば、もう冒頭のビール瓶の話を深く理解できるのではないでしょうか? ビンはあたかも温度だけに作用して結露したように見えるが、実は露点温度に左右されている。仮に、ビールを美味しい温度の6℃に冷やしたとして、冷蔵庫から出してみる。部屋の温度が28℃ならビール瓶に結露するのが当然だが、もし(再度、仮に)その部屋の湿度を20%にすることができれば、露点温度は3.0℃となるので、6℃の瓶に結露はしないですね。どうですか?納得できましたか?


ビルジと積み量
「ビルジも積荷のうち」は常識ですね。揚地のドラフトサーベイで持ち物を引いた数量が、積地のそれと一致しなければならない。従って、航海中むやみにビルジを引いて捨ててはなりませんね。(どうしても引かねばならない場合はどこかのタンクに入れておく。)
左写真は、結露によって船底にビルジが溢れた写真です。上記、高温季に雨で濡れた貨物を積んで、冷たい海域を航行したことによるものと考えられる。

B20m x L30の船で、Hold内に高さ15cmまでビルジが溜まったとします。(便宜上Hopper Tank部は考慮しない)
水の比重はほぼ1.0なので、単純にかければその重量がでます。90tですね。これが3Hatchあるとしますと270tのビルジとなり、着後のドラフトサーベイで問題が生じてなかったとしても、揚げ切りでその分ショートするはずです。

船倉にもう貨物はないのに荷主の蔵には予定数量が納まってないという状態ですね。必ずクレームが来る。その時(再度サーベイがかかるはず)にビルジが既に排出されてしまったでは困る。
後日、荷主から船会社に必ずクレームが入ります。俺の荷物をどこにやったか?という話だ。(余談だが、こういった場合、荷主はドサクサに紛れて3~5割増しくらいで吹っかけてくることも珍しくないから面白い)

しかし、荷主が雇ったサーベイヤーと共にドラフトチェックをやって、積み量に問題がなかった場合、船側になんら責任はありません。(270tとはTPC30tの船で、C/Oとサーベイヤーが二人して9.0cmもドラフトを読み間違ったことになる。あり得ません。一笑に付すとはこのことだ。)ただ、
@ ビルジがHold内に溜まっている写真を撮っていなかった。
A ビルジ量をサウンディングしていない。(別のタンクに移動せず、誰の確認もないままに排出してしまった。港内ですのでまず考えられませんが。)
B ビルジが異常に多いことを会社(船社)に報告していなかった。(船社から荷主に報告することによって、荷主はその後の保険処理等のためサーベイヤーを手配する。)
などになると、荷主のその後の処理に影響を与えたという意味で、責めに帰すべき事由となる。言い換えれば、船長に落ち度があったということですので、何事も報告は怠らないようにするのが鉄則です。


作者著書