瀬戸内海の安全航行7つのコツ

われら海族 Index


外航船乗りから内航船に職場を移すと、以下のような厭味を必ず言われる。
「瀬戸内海を航れないだろう?」
「499で一人ワッチしたことないのか?」

私も内航に初乗船後すぐ、食堂での飲み会に毎夜立て続けに呼ばれ、船長に「素人が」と3日3晩同じことを言われバカにされた。叩き上げの船長だった。
このような発言をする方々の心理は説明するまでもない。人としてとても残念です。

明治4年、瀬戸内海(淡路市江崎)に初めて灯台(航路標識)ができた。

海するのは至難の業であったように思う。

@

A 中央ブイを含む航路標識が現在より十分でなかった。
 (現在は、明石海峡から関門海峡に至るまで

B マニュアルによる


D 昔は、

がなかった。
 (現在は多くの

こういった理由だが、瀬戸内航行には、その昔、経験と卓越した技術が必要だったであろうことは明らかだ。
しかし、昭和47年以降、



車に置き換えてみよう。交

ない!」という方は、「ならば自動車のスピードは船の比ではない。」に反論できるだろうか?

瀬戸内海は、狭水道通過、避航や変針など舵を使うことが外航に比べ格段に多い。なので、簡単だとも決して言えないが、上記したように、現代では経験というより、「慣れ」


表立って書いてるものはあまりなんですよね。

よって、ここでは、法規以外の部分で、7つのコツを指南する。というか、経験する前に予備知識として得て頂ければ幸いです。


まずは、よく言われることだが、「頭より先に船を走らすな!」というところで、
これらイメージができないと、コツもヘチマもないので、その点をよくご理解して頂き、前に読み進めて下さい。もしまだそういったことになっていないなら、もう何回か瀬戸内海を通った方が良いかも知れません。

2)変針方法
ブイを重視するのはよいが、



3)      絶対に入らないこと。
自船の大
定の距離を保てるに至って原コースに復帰する。またこの際、同航船や浅瀬があってサイドに出ることができない場合は、迷わず(1mileに近づく前に)エンジンをSlowまで落とす。こういった場面は非常に多い。
エンジン使用は

ただし、こんな船もいる
内航船の中には瀬戸内でもR/upする船

(書類面はR/upのまま)にしてどないすんねん?と、私は思う。

私が乗船した船の船主&運航者は危険な場合はいつでも機関を使用してください。


499などは当然瀬戸内でR/upなどしないから、航海士の意識もそ

C重油でも変速できないことはないが、

自由に機関使用させるようにすべし」と船長・機関長への指導がまず最初だろう。PDCAサイクルが機能していない典型かもしれない。

是非とも考えて頂きたい。


4)避航動作


避航上大いに役立つ。
・レーダー機能の離隔距離BCR(Bow Crossing Range)を利用する。BCRは相手船が本船の船首尾線上何マイルで通過するかというものである。プラスで表示されているときは本船の前面を通過し、マイナスの時は後面を通過する。プラスの場合には

りもBCRを強く意識する場合が多い。
・大洋航海ならば相手船との距離が8マイルでも10マイルでも、早く見つけて早く動作をとった方が良いようにも思われる。しかし、初認から避航開始までを10分とし、避航開始から回避(最接近時)までが15分とすることが理想(初認の時期は最接近距離の25分


6マイルということになる。同速度の横切り(1:√2として)では約4マイルがこれにあたる。
COLRZG(衝突予防のための国際規則)では、5マイルを超えて遠距離にある船舶の避航について規定されていないし、海上衝突予防法のマスト灯視認距離は50m以上の船舶で6マイル(舷灯・船尾灯は3マイル)、50m未満の船舶では5マイル(舷灯・船

相手船の動向が早くからわかっていても、

かえって危険なこともあるので気を付けたい。


 @行き会い船。変針後の
予想し、
避航する。
   A船がB船と行き会って、避航するとき、その偏位Yは、

る。
因みに、
 °≒ 0.05

と、なるから3の倍数で舵を切ると、

Y(最接近距)が4ケーブルとなるということです。Yを何ケーブル取るかによって。
目安として、大洋航海では1mile以上、沿岸航海で0.5mile、瀬戸内では少なくとも2〜3ケーブルの最接近通過距離をもって行き会いたいが、操縦性能のよい内航小型船(


が、応答しない船も意外に多いということを知識として持っていてもらいたい。


 A横切り船の避航。
行き会い船への避航は3〜6°程度で躱せるが


しかし、当然のことながら近づいたところで舵を切る大きさはかわらないから、右の水域が許す限りできるだけ早く(接近距離3〜4マイルまでに)避航動作をとって、



や浅瀬がある場合は、@相当前の余裕ある時期(例えばA-B間
幅に左変する。(左図) A機関を落とす。BVHFで相手船にその旨を告げる。など、適宜対処しなければならない。
(*@海上衝突予防法22条

A同様、視界制限状態時の航法19条5(1)にも抵触前。と考えられる。38条適用。)



5)湾曲部は、右小回り、左大回り。
港則法17条(


。但し、B船は島付近の水深について十分把握しておくこと。

また、喫水の浅い小型鋼船ではB船よりさらに内側(島に接近して)を左折(右対右で躱そうと)しようとするものもいます。湾曲部は小型船をレーダーに捉えられないとき





6)漁船への対応
漁船は白波が立っていると発見が遅れる。長距離レンジでは映りにくい。止まっているかと思いきや、急に走りだして、

なぜこうも前を横切りたいのかと思うほどに突っ張ってくるものも少なくない。


備讃瀬戸では、コマセ網漁が盛んだ


その動きは奇想天外である。
漁船を避ける場合の目安には個人差があると思うが、

以上に舵を切るようにし、海域が許す限り大胆に針路変更をしたい。兎に角、早く発見し、目を離さないことが肝要である。

ビビりすぎもカ船長が1ヶ月も前から、
「大阪向けになったらどうしよう。怖いなあ。行きたくないなあ。不安ですわ。」
と、乗組員誰かれなしに弱音を吐くようになった。しまいには冗談をいう乗組員に対し「私がこれほど心配しているのにくだらないことを言うのはどういうことか?」などと食ってかかったりする始末。
だいたい乗組員の命を預かる船長ともあろう人が、

もしそうなった場合、乗っていった船の船長に「いかなご漁をやってますので、僕怖いんですよ。もって行けないかもしれませんわ。」

「何しに来たんだ。下りてけ!」って言われますね。
船長が乗組員に不安を口にしたら終わりです。挙句その不安を乗組員に当たり散らしてどないするんでしょう。乗組員からたいそう顰蹙を買っていたことは言うまでもありません。
こんな船長でもこの頃はパイロットになるのだろうが、まあ面白い。いや恐ろしい。
しかし、航海士としては、多かれ少なかれ漁船には


気を付けて頂きたい。


7)潮流の影響。
瀬戸内では狭水道の通過が必須となる。

それら一貫して大舵を切らないことが鉄則です。
また、最速部(≒最狭部)では保針に努めて(変針は避け)、できるだけ潮の影響が少ない他の部分で変針するよう航海計画を立てる。


特に反航船があるときや、

針しない。(順潮でハードを切れば、効き始めたときに逆ハードをとっても止まらない現象が起きることもあります。)
重視線や航

Leewayを逐次加減して予定針路に乗せる。狭水道通過において、初心者はQ/Mに舵角号令するよりも、コースでオーダーする方が無難です。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

明石海峡
@

東方ブイを通過して左に曲げるが、都合その後大阪方面からの西航船と右対右でかわろうとする船も結構多い。

A 家島方面から明石海峡航路に入ろうとする船舶は、


本船が避航船になるので、これら列をなして接近する船舶群を大幅に避けなければならないことがある。漁船が多く注意しなければならないが、右の可航域は広い。


備讃瀬戸
@ 中国地方と四国の間を結ぶフェリーや


A 備讃瀬戸東No.1B’yから瀬戸大橋手前までは248°で持って行って。そこから備讃瀬戸北に入る変針となるが、水島航路と交差する付近は

、b. 248°で三ッ子島に寄り、そこから259°でまっすぐ牛島灯台の方に向けるコースでも良い。勿論、a-bのド真ん中も通れるが、得てして


B 備讃瀬戸北航路は、
舷標識はない。



来島海峡
@ 橋と島が連なり、

認してから航路inすること。

A 通峡時の船間距離は
ブル以上としたい。

B 南流時、
東航は安芸灘推薦航路No.4B’yを、

たのち早急に(鋭角に)舵を切るのが理想だが、来島海峡航路から出峡船には避航船となるから注意する。

C 南流最強時に中水道を

えの一つに加えて頂きたい。(北流時は、逆に橋の北側で潮の影響が大きい)


奇跡の操船



私はこいつアホちゃうかといつも思った。事故が起こらないが不思議。

来島の中水道を南航するたび毎回これなのでほんとに肝を冷やしたもんだが、この船長は強運の持ち主(昔この方は犬吠埼沖付近で船が衝突沈没した

にならないし、また浅瀬が来る前になんとか舵が効き始めた。ただ、我々は生きた心地がしないのである。
船の特性上仕方ないのかとも思ってもみたが、

潜んでいるのかとも考えたが、レーダーで後に続く他船を何隻確認しても皆右往左往することなく変針しているのである。この船長本人が「いくら作戦を練ってもなあ」と漏らしたので、要するに船の特性ではなく船長の特技なんだろうと妙に納得した。

色々な経験者に聞いてみたが、中水道の南航で

れでも良いのだろうが、普通はセオリー通り小刻み変針とし、中渡島・馬島間通過直後のコース設定には舵角操舵号令より航路目標を指示する方が良いと、私は思います。


関門海峡
@ 関門航路北口から入る東航船において、馬島と和合良島の間から、第二航路を南下し東航する船舶が見えた場合、

(港則法施行規則38条1-7)

A 関門航路北口から入る東航船は、


西航し第二航路へ

注意を要する。







D 西航船は、下関導灯→彦島


目の前で東航から下関港へ舵を切ってくる船があるので要注意である。

E関門海峡(早鞆瀬戸水路)を通航しようとする総トン数

なければならない。通常出港地の代理店(外地からの入港船は入港地の代理店)が手配するので要確認のこと。



番外内航船と外航船の変針号令の違い
(例)200°から270°に変針する場合

外航船の航海士の操舵号令

船首が新針路に向いたところで、Q/MにSteadyをかけ航海士(船長)がコースを告げる。

内航船の航海士の操舵号令(例)
@Starb'd
AMidship
 新コースに
こんな舵の取り方なら、始めからQ/Mに「コース270」だけでいいんじゃねえのか? と、私は思う。

私などは外航船から内航船に来て、Q/Mに「持ってみろ」などと偉そうに言われ、急に舵を持たされて、大いに戸惑った。
船長が「今度乗ってきた航海士は舵取りもできない。」と会社に報告する。全くバカげている。

外航船の大洋航海と異なり内航船では、ちょこまか舵を切ることが多いので大減速を引き起こしても、早くコースラインに


また、内航船で外航船のようにオーダーすると、「当て舵までオーダーしやがって!」と根に持つような、遣り喰ったQ/Mなども多いのだ。
百歩譲って、


どうしようもない。見解の不一致だけだろ? 商船卒がいかに不当に僻まれているかがわかろうかと言うものだ。ほんとくだらない。

外航から内航に移る航海士は、こんなことで足元をすくわれないよう、ここいらの違いにほんと注意してください。


ご注意願いたい!
内海の強制水先は



また、世界にはシンガポール海峡や、Sulu seaからSan Bernardino海峡に抜ける航路、ドーバー、バルト海など瀬戸内同様に気が抜けない海域は数知れず、ビスケや冬の北太平洋など違った意味の航海の難所なども多い。知らないのだろうなあ?

遠い過去のイメージが残っているからか、60歳以上の


るようで可哀相に見えます。やめた方が良い。


50歳以下の船員は上述した意地悪なことを言わない。)
船員が不足していると言われる中、固定観念で凝り固まったこういった方々が早く引退してやらないと、海の職場は改善しないだろうなあと、個人的に私は思う。

部下を

識と能力が必要です。

使えない」などと安易に言って排除しようとします。自分で「俺は(人を育てる)能力がない」と言っているようなもんです。
他人のできることはあなたもできます。あなたのできることは他人にもできます。
これが世界の常識です。



作者著書