Heavy Cargo Operation
重量物荷役 1. Lifting

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荷役には、コンテナや液体、箱物、鋼材、バラ積、冷凍貨物など貨物によってさまざまな難しさがあると思いますが、重量物荷役をやる場合は、トリムやスタビリティー計算はもちろん、重量物吊り上げ時の傾斜角、Sling強度、甲板強度、Securing強度などを計算し、絵も描かないといけませんので、面倒くさいです。
積んだはいいが、ondeckに貨物の脚を直接溶接したなどと平気で言っているポートキャプテンに出くわしたことがあります。恐ろしいことをする人が世の中にはいるものです。たまたま船が揺れないで目的地まで行けたのでしょう。絶対に揺れないならSecuringなんか要りませんのですから、それでもええちゅうたらええんですけど。相当度胸のある方です。でもそんな保障はできないので、みんな必死のぱっちでLashingを何十本もとり、Stopperを溶接し、しますね。
ここでは、重量物のLiftingについて語りたいと思います。安全に度胸は全く必要ありません。
まずは、重量物船が貨物を吊り上げる写真を2〜3見て下さい。
@Lifting Pointの高さが違います。向かって左はLifting Lug、右がTrunnionで吊っています。おまけにこの貨物は重心が中央にない偏荷重でした。
こんなケースでは、Hook(& Spreader) と Cargo の COGを合わせるだけではなく、画面左右双方のSlingにかかる内側向きのベクトルを一致させなければ貨物は傾いて釣り合いません。

簪(Spreader)に懸けたSling Positionに注目して下さい。

こういうSlingの作り方が一番難しいです。計算方法は飯の食いだねですので教えません!笑

嘘です。ちょっとした算数です。

A本来は胴巻きか、左写真のようにタンデムで吊り上げるのが最も簡単です。
荷主さんの注文で胴巻きはだめ、Stowage上Crane2基を使えないなどの制約が出来ると頭を捻らねばならない。

この船は2番、3番クレーンがヘビーで、@の場合は3番ハッチに積んだのでタンデムができなかったのです。

様々な吊り方があります。その方法は貨物の形状や積み付け位置、荷主のオーダーその他多くの条件によって判断されます。


1. 次に、重量物船の荷役時に多い事故です。
事故例(1)
@揚荷の場合(GIFアニメ)
図は本船を輪切りにしたelevation(正面図)と考えて下さい。
積載位置から荷物を岸壁側に振っていきますと、その重量移動によってまずその方向に傾斜します。
そして、荷物をトレーラーに積むため、図のように重量を移す(Slack)していけば、船は必ずその分だけ起き上がります。荷物を積んでいる状態で釣り合わせているのですから当然ですね。
それらは貨物の重量が重ければ重いほど、その度合いは大きく顕著に現れ危険です。どのくらいかというと、
w x l = W x GM x sinθ
左辺:wlモーメントと、右辺:復元力が釣り合うまで傾く。(実際はクレーンブーム移動による傾斜も加算される)
無視すれば、左図のような事故や転覆に繋がることにもなりかねない。
ですので、揚げ、積みに応じてそれらをうまく解決しなければなりません。

また、その重量物に耐えうる吊索具を揃えることや、船の部材強度以内に積載することも非常に重要です。


事故例(2)
A積荷の場合(GIFアニメ)
船に重さが加わっていくので、@揚荷と同様に傾いていきますね。
そのまま対処せずにHeave in し続けますと,
左図のような事故になります。

重心(回転軸)より外に重量をかけると傾きます。このぐらい。

(本当は貨物の重量分だけ重心が上昇したり、水平移動もするので、その分も算入させます。)





重量物を積載するときの本船の傾き と GM減少
詳しくは、
tanθ= w・l +k / (W+w)・G'M
貨物の重量によって重心の垂直移動GG'が起こる。Displacement、その他諸条件
にもよるが、300t以上の貨物を吊る場合にはこの補正を絶対にやらねばならない。
特に左舷CRANEで、もの凄いGMの減少があります。

G'M(m)= GM - (w・h/ W+w)
h(m):Boom Topから本船Gまでの垂直距離(BTK-KG)
Crane Boomの重心移動によるモーメントk
k(t-m) = (Crane Boomのweight) x (Boom long)/2 x cosβ
β:Craneの仰角(貨物側に90度交角する前提)

事故例(3)
失敗すると、こんなことになります。
Dollyから落としちゃってます。

(私の事故ではありません。念のため。)


当該船社を特定できないよう写真を一部加工しています。

2.重量物船で荷役を安全に行うには、2つの手法(Operation)があります。
1)Boom Up (Down) Operation
重量物の中でも比較的軽い物に適用できます。本船のDisplasmant(重量物船でそんなに大きい船はない)にもよりますが、ざっと100tくらいまでなら対応可能でしょうか。
クレーンは船体が5度傾いて使用することはできませんので、どのくらい傾くことになるかしっかり計算して実施します。これはいつでも5度傾くまで大丈夫だというふうに理解してはなりません。生涯1度くらいならと考えておくほうが良い。
私ならマージンやボトムタッチも考慮して3度くらいまで傾く計算結果で、この手法をやめます。

難易度:☆☆

アニメは貨物を下す場合ですので、貨物の重量を下す(カーゴフォールスラック)度にブームダウンさせます。
クレーンにインジケーターがついている船では、5tづつスラックさせます。ない船ではオペレーターが一気にスラックしてしまわないよう事前によく打ち合わせし、ちょいスラックしちゃあ、ストップ、ブームダウンを繰り返えさせて貨物重量を移していきます。

2)Heeling Tank Operation
(単にヒーリングオペレーション、バラストオペレーションということもある。)
RORO以外の重量物荷役で行われる。
船体の傾斜をコントロールしながら行う荷役ですから最も安全とされています。

難易度:☆
これは、船がそういう構造でないとできませんし、また訓練された乗組員が行う作業ですので難易度は低くなる。

1)まず、貨物の5-10%重量をカーゴフォールを巻いて取ります。
2)当然船はその方向に傾きますので、カーゴフォールをまっすぐ立てるようにブームアップします。ここまでが準備段階です。
3)Heeling Tank Operationを開始します。

4) 貨物が重量で引っ張る力と、船がバラストで傾こうとする力がバランスするため、船の状態は保たれたまま貨物の重量だけが移動して行きます。これは貨物が浮き上がるまで続きます。
クレーンオペレーターに5t毎インジケーターの変化を報告させます。

船乗りやフォアマンでもこの原理を中々理解できない人がいます。なので言い換えてみましょう。

本来、船が貨物を左舷からCraneで引くとその重量分だけ必ず左舷に傾きますね。また船内バラストの移動は同様に船の傾きを生みます。左舷から右舷に移動させれば右舷に傾くということです。貨物を吊ろうとバラスト移動を利用しますと、この力は貨物を持ち上げようとする力(船を左舷に傾ける)と、船を傾けようとする力(船を右舷に傾ける)の二つに作用することになります。時々刻々貨物重量を受けその舷側に傾きつつ、水の移動で反対舷にも傾けているのです。バラストによる傾きが先行して貨物を引っ張っているのではありません。
ですので、貨物に引かれる傾きと、バラストによる傾きは相殺され均衡し、船は見かけ上どちらに傾くこともなく、貨物の重量だけが船に移動するとういう現象になるのです。
では、このHeeling Opeartion中にカーゴフォールが切れたとします。どうなると思いますか?
貨物重量分だけ反対舷に跳ね返るのではありません。船はそのバラスト分も加わって瞬時に反対舷に傾いてしまいます。貨物重量を受けて吊りあっていたものが、バラストによる傾斜成分だけになってしまうからですね。転覆・大惨事です。不幸にもごくたまにこういった事故が起こっています。

5)貨物の引っ張る力が0になった時点でバラスト移動による力が船に働くので船は傾き始めます。ですので、貨物が浮き上がったらすぐにバラストを止めます。ポンプをストップする号令を発しても時間差時間差で少々バラストが効いて傾いてしまいます。この辺のところは経験と、テクニックですので、状況によってバラストだけで浮き上がらせる場合もあれば、寸前でバラストを止めカーゴフォールを巻き始めることもあります。

6)カードフォールを巻いて貨物をデッキ高さまで上げます。垂直に上昇ですので船はどちらにも傾きませんからバラストはストップのままです。

7)貨物を船の中に移動させて行きます。船は右舷側に傾きますので、バラストを逆に流します。この際、貨物の移動が早すぎるとバラストが追い付かずそれによって大きく傾いてしまいますから、貨物を1-2m中に入れちゃあ待ち、1-2m入れちゃあ待ちを繰り返して所定の位置まで持って行きます。

8)貨物を設置させる場合は必ず船はアップライトの状態にしてからです。船が傾いていると荷重を面で下すことができず、1点に集中してしまうからです。


Heeling Tank Operation時の事故

カーゴフォールの点検や規定に従った新替え、適切なSling Wireの使用を怠ると、左図アニメにあるよう、えらいことになります。
ヒーリングオペレーション途次にそれらのワイヤーが切れた場合、船は貨物の重量分が急にフリーになり、(バラストが入ってしまっていることから)反対舷に大きく振られてしまいます。当然、デッキにいる人は放り出され大怪我では済まないということになります。また、切れたワイヤーロープは暴れ、当たれば人間の手足など一発でぶっ飛んでしまいます。即死です。貨物の重量によっては、船が完全に横倒しになってしまうこともあります。既に積んである貨物の荷崩れなど二次的被害による影響も甚大だ。

重量物輸送の一流どころである BIGLIFTや、JUMBO などになりますと、<重量物荷役を今から始めますよ>という段階で、Shipperだろうが、チャータラーだろうが、サーベイヤーだろうが、乗組員以外の全ての傍観者(関係人)を船から下します。安全を重視した考え方で、非常に紳士的かつ、賢明な対応です。

一方、二流(経験・知識が薄い)の船社の船では、やれ営業要請だ、ヘチマだのと言って、荷主さんや船社の人間、ステべなどが、舷側のハンドレールに寄りかかり、鈴なりになって重量物荷役を見ています。私は、すごく危ないなあと思います。我々ならそれで飯食ってるし、何かあっても仕方ないというか諦めもつくが、お客さんを道連れにするのはいかにも心許無い。これを見て死ねるなら本望だとは誰も思ってないでしょうからねえ。安全は自分で確保しましょう。


3.重量物荷役はクレーンで巻き上げる前の<Sling掛け>が一番難しい。
難易度:☆☆☆
1)いわゆる玉掛け作業です。
重量物を吊り上げる場合、50-80mmなどというスリングを使用しますので、それをクレーンフックにかけ貨物底に通して、またフックに掛ける。この作業をするだけで2-3時間、なんていうのがざらです。

2)玉掛けが終わるとカーゴフォールを貨物の重心から垂直に立てる作業を始めます。これが最も難しい。
よく理解していない乗組員がやると玉掛けが終わったらすぐに、ちょい荷重をかけてスリングを張りたがる。その後に貨物からカーゴフォールを垂直に立てようとするのです。それでは貨物の重心を、絶対に捉えられません。これは大間違いです。玉掛け後のカーゴフォールを貨物の重心に持ってくる作業はテンションが一切かかっていないブラブラの状態で施さなければならない。
また、船横・船なり、双方から見て貨物の重心を捉えることが重要です。そうしない限り、Boom Up(Down)、Heeling Tank Operationも決して始めてはならない。適当にやれば、貨物が地を切る際かならず横滑りを起こし事故につながります。
この時点で重心からずれている分は、少なくとも地切り時にずれます。
隣の貨物が接近している場合、イニシャル段階でわざと少しずらして(貨物重心から離して)セットしようとする方がいる。見とると、ただでさえ重心を捉えらえないのに、そななこことしてどないすらぁ? と、私は思う。そんな小細工はやらず。兎に角カーゴフォールを重心から正確にまっすぐ上がっている状態にして始めるのが鉄則です。20cmや30cmの修正なら地切り寸前で施せます。
まだ、「そんなことあるか!」と仰る? では、こう言えば解かって頂けますか? 胴巻きでもShackle掛けでもそうですが、垂直に揚げず少しでも斜めになりますと、地切りの際に貨物が回ります。そうすると、荷重が未だ揚がらない側に集中し、船体構造物を傷つけてしまうのです。また胴巻きの場合、一端斜めに浮いた貨物は水平には戻せませんから、同様、着地させるときにも同じ現象が起こります。これは(船ならまだしも、)トレーラーに乗せるとき、強度的にも技術的にも非常に苦労します。
船なり方向
だめ だめ
船横方向(シングル)
      積荷の場合は、まず船横方向を合わせる。重心をクレーンの中心線上に持ってくるだけでよいから簡単だ。船横方向の重心位置は、積荷開始時に、トレーラーのハンドブレーキをフリーにして置くことで多少は対応される。(揚荷の開始時は、任意の場所に積まれているからこうはいかないが、トレーラに置くときにはやはりこの位置にする)

あとは、頭の上げ下げだけで、船なり方向の重心を捉えることができます。スウィングを入れての頭合わせは至難の業となる。
だめ
船横方向(タンデム)
だめ だめ
タンデムでは、船横方向を合わせて船なり方向を整え、再度船横方向に戻ると狂っている。また合わす、狂う。初心者がやると何度やってもうまくできません。ブームを斜めに上げる(スィングとブーム揚げ下げを行う)ことができなければ時間ばかりかかって全く合いません。コツは、船なりで合わせてるときに頭の中で船横方向をイメージしつつやるのです。これぐらい頭揚げれば、船横ではこれぐらいズレてるはずだから、ちょい回しとくか、なんて感じですね。
この動作で、そのコマンダー(号令をかける人)の実力がわかります。

重量物船で荷役を開始、すなわち、貨物から重量を取り始めたら、とにかくカーゴフォールが重心から垂直に上がっているかを絶えず、チェックしなければならない。クレーンブームトップから貨物までのカーゴフォール+重心までの距離が仮に30mあるとしましょうか、すると、0.5度見誤っただけで26cm貨物は横滑りを起こす。1度なら50cm以上となる。1tの物がそれだけ動いても恐ろしい。100tの物だと物凄いエネルギーでしょ?重量物は地切り時、垂直にフワッと揚げなければ事故につながる。

Heeling Tank Operationをやると、理論上は上記のように船の態勢を維持しながらということになるのだが、ごく稀れに少々そうでなくなる(Trimか、Draftか、重心の水平移動か、フェンダーの当たり具合か、なにが原因かよくわからない)ことがあるので、これは都度修正してやる。ただし、Heeling Tank Operationをやっているのもかかわらず、明にどんどんheelしていくというのは、何かおかしい。荷役を中断し原因を究明したのちでないと、継続してはならない。ボトムタッチか? クレーンオペレーターがオーダーもしないのに巻いていたなんてこともある。危ない!
ここに書いたのは、重要部分をピックアップして羅列しただけです。重量物荷役は、全てが機械的に進めればいいというものではありません。段取りや号令のタイミング、惹いてはチームワークも重要です。他に細かいテクニックや経験で磨かれる感覚等、ここには書かれていないことも多い。このページを読んだだけで「俺もできる」と決して思わないで下さい。フォアマンの他、たった1航海か2航海(2-3回ほど荷役をやったくらいで)行ってきた航海士がその気になり、勝手にやりたがることがありますが、これらと同様、非常に危ない。
慢心は、誰かベテランについて常時これら重量物を取り扱う業務に従事した経験を有してからにしましょう。
重量物荷役を安全に行うには、大きくわけて3つの知識が必要です。
1) Lifting
2) Deck strength(ユニフォームロードで積みません)
3) Securing
全て計算によって根拠立てできなければ決して積んではいけません。この三つの能力が備わっていないということは、重量物を扱う基礎がないということですから、当然緊急事態にも対応できませんねえ。いっちょこまえにLifting動作だけ真似たって、なんのこっちゃという話になります。気をつけて下さい。

ただし、上記を悪意にとらないで下さい。どうか事故を起こさないようにお願い致します。
こういった技術は、モノづくりの職人さんや料理人などに匹敵するような年季のかかる大それたものではありません。ましてや、造船工学などの高度な計算を要することもない。たまに、自分の価値を高めたいが為か保身か知らないが、商船学校出でないとダメ、航海士の経験が必要だ、などという人がいますけど、航海士が1年船に乗ったところで荷役を何度経験しますか?全くのナンセンスです。免状のない人や機関科卒の方もポートキャプテンを立派にやっています。一般大学を出る能力があれば、十分すぎるぐらいです。よほど勘の鈍いやつじゃない限り、1-2年ほど専念させることで誰だってできるようになります。
(外航大手では、自社養成といって一般大学卒を2年で航海士に育てます。それに比べればポートキャプテンなどは容易にできなければ嘘です。教える側の力が問われますね。)
最後にそのことをここにつけ加えさせて頂きます。

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