GMDSSとその免許制度

われら海族 Index


GMDSS (Global Maritime Distress and Safety System)
SAR条約、SOLAS条約のもと、GMDSSは、1992年から運用されている海上における遭難・安全通信システムの世界的制度である。SOLAS条約によってGMDSSを装備しなければならない船舶は、国際航海に従事する総トン数300トン以上の貨物船及びすべての旅客船となっている。GMDSSは、無線電信システムに代わって、自動化とデジタル化されたのが特徴で、いつでもどこでも陸上と連絡がとれることを大原則とした。

その搭載要件は、
@NAVTEX受信機(518kHz)
MFを利用して航行警報や安全情報を自動印刷電信する。通信範囲は300〜400mile。

ADSC(Digital Selective Calling)デジタル選択呼出装置
MF/HF無線(電話)設備は中距離〜遠距離(インマルサットでカバーできない地域にも有効)での通信を行うために用いるが、通常これはDSC等と接続構成されていて遭難・緊急(行方不明等)・安全(漂流物等)通信に使用される。
超短波滞(VHF: 30MHz〜300MHz)はVHF電話156MHz滞の16CHが「MAYDAY」の口頭呼出し(まずこれらが最初で、応答がない場合にVHF DSC → MF/HF帯と遭難警報を広げる)、70CHでデジタル選択呼出しとなっていて、中波滞は(MF: 300kHz〜3000kHz) 2187.5kHz、短波滞(HF: 3MHz〜30MHz)は8414.5kHzにより行う。
但し、遭難警報(呼出し)については[DISTRESS] ボタン一つ(5秒以上の長押し)で全船に通知される。それぞれ 3.5〜4.5分の間隔で自動的に電波が発射され選択的に相手を呼び出すことができ、DSC装置を搭載している船舶または海岸局で自動受信される。

BEPIRB(406MHz)
衛星非常用位置指示無線標識。装置が約4m沈むと自動的に遭難警報を48h以上発信する。これは、コスパス・サーサット衛星に中継されてRCC(Rescue Coordinate Center)に伝達される。EPIRBは航空機などがホーミング(探知・追尾)するためのビーコン電波(121.5MHz)も送信する。

CインマルサットC
インマルサットを使った直接印刷電信システム(音声通話はできない)。インマルサットCから1.5GHzで受信し、船舶局からは1.6GHzの周波数で送信できる。

D捜索救難レーダートランスポンダSART(Search and Rescue Rader Transponder)
遭難自動通報装置。この装置を作動(activate)させると、救助船等のRaderから発射されたXバンド9GHz滞(船に積まれているレーダー2台のうち1台は9GHzを使用している)の電波を受信した際、トランスポンダは自動的に9.2〜9.5GHzの300MHz間で応答電波を出し、捜索船のレーダー画面上に12個のDotを出す。96時間の待ち受け状態の後、レーダー電波を受信してから8時間の動作可能な電池容量が要求される。(船体放棄する場合は生存艇に持ち込む)

E双方向無線電話装置
救命艇に持ち込む携帯式VHFで形状はトランシーバー型。Ch15、16、17を備えている。(生存艇に持ち込む)

FAIS(Automatic Identification system)船舶自動識別装置
AIS の装備を義務付けられている船舶は、
(1) 国際航海に従事する300 総トン以上の全ての船舶
(2) 国際航海に従事する全ての旅客船
(3) 国際航海に従事しない500 総トン以上の全ての船舶

GSSAS (Ship Security Alert System)船舶保安警報装置
船舶がテロ・海賊等に遭遇した場合に陸上機関へ通報できるシステム。国際航海に従事する旅客船と同500t以上の非旅客船に義務付けられている。

HGPS(Global Positioning System)衛星航法装置
国際航海に従事する旅客船と同20t以上の非旅客船に義務付けられている。国際航海に従事しない500 総トン以上の船舶
などとされる。
(*1kHz=1000Hz, 1MHz=1000,000Hz, 1GHz=1,000,000,000Hz)

遭難船が救助船・航行船・海岸局にとるべき対応 

GMDSS採用でSTCW条約も改正され、2002年以降は専業としての無線士(長)の乗船義務がなくなった代わりに甲板部当直職員に無線資格が必須となった。ROC(Restricted Operation Certificate)として、国際航海に従事する船舶には、一級海上特殊無線技士(旧国際無線電話)、国際航海に従事しない船で二級海上特殊無線技士(旧無線電話甲・乙)ということになっていて、操作範囲は、共に「空中線電力50W以下の無線設備で25010kHz(25MHz)以上の周波数の電波を使用するもの」というところで、チャンネルの全てが156.xxxMHz滞のVHFを操作できる。
ただし、外航船舶の無線局に選任(航海士と兼務)を必要とする通信士の資格は三海特(三級海上無線通信士)である。従って、一海特では通信士となれない。三海通は125W以下で国際電気通信業務の全ての通信を行うことができ一海特の上位免許GOC(General Operation Certificate)にあたる。また、兼務通信長になるためには、三級海技士(電子通信)以上の資格を受有しなければならない。

最近では、日本の航海士免状をパナマのものに書き換えるための条件としても三海通では不足で、三級海技士(電子通信)が必要となっている。

なんでこんなややこしいことになっているかと言うと、STCW条約やSOLAS条約がどうも絡んでいるらしい。三海通は船員でなくとも誰でも受験し取得できる免許なので、それだけで海技免状がない人間が通信長として乗船できるというのはおかしいじゃねえの?ということで、急場しのぎのように海技士免状に「通信」とは別枠の「電子通信」を作ったと言われる。


だから、この三級海技士(電子通信)は、三海通の免許、船舶無線従事者証明書の取得(所定の講習修了後申請)、航海士の免状と半年の乗船履歴があれば国家試験は身体検査のみで免状がもらえる。

ここに不条理もある。
例えば、長く船員を辞めていた人が、また船に乗ろうと長い講習を受けて免状を復活させる。三海通も国家試験で取る。無線従事者証明も講習を受けて発行してもらった。しかし履歴が切れている(15年間乗船していない)と、いくら海技免状があっても三級海技士(電子通信は)受験できない。それが当初の私だなあ。(笑) 
内航のセーラーでもいいから半年乗って来いと門前い。なんか矛盾があるように思う。船員へのカムバックしたい者にとって、この半年の履歴が大きなハードルとなっている。拒んでいるとしか思えない。

また、
三海通は生涯免状であるのに対し、一方、三級海技士(電子通信)は、船舶局無線従事者証明書が無効(5年のうち1年の履歴がない場合)になると、自動的にこれも失効し再交付されない。(通常の海技士のように失効再交付講習で復活できない)従って、また無線従事者証明の講習→ 国家試験(身体検査のみ)と再度やりなおさないといけないので注意してほしい。この制度もなにか腑に落ちない。
今後のためにも改善を望みたいものです。

尚、三級海技士(電子通信)のLIMITATION APPLYINGに書かれているC/R : On board Maintenance / Unpermitted & Not on boarded Maintenance / Permittedとあるのは、無線電信にかかる船上保守を行わないものの通信長はできるという意味である。(船舶職員及び小型船舶職員法施行令第5条の別表1 五.無線部に規定される)


船員の英語能力
上記でVHFの話がでたので、半ばタブー視されている船員の英語力について書いてみよう。
船員が英語を使う機会はそう多くない。外航船の船長や一航士あたりになると、荷役関係等でそれなりに使うが、その他はVHFぐらいか?多用はしない。

航海士の国家試験は1〜6級まであるが、そのうち1〜2級においてのみ、長文和訳2問が出題され2時間で解く。はやりのTOEICで比較して頂くと、スコア500点くらいの人なら1級だろうと筆記試験の英語は楽に解ける問題だ。なんなら三海通の試験英語の方がやや難しい。
ただ、大手船社では、TOEICスコア650点以上が船長要件とされて、これ以下の方は船長になれない。一方、パイロット学校への入学要件は
TOEIC470点だそうだ。
TOEICテストではスコア470〜730点で「日常生活のニーズを充足し、限定された範囲内では業務上のコミュニケーションができる」となっていて、逆に
船乗りの英語力はこの程度で良いのだろう。VHFで政治の話をすることはない。

ところが三級海技士の英語がどうも怪しい。航海士ならまだしも、残念ながら三級は近海区域において結構大きな船の船長までできるから具合が悪い。
関門海峡を通過中の話だが、第二航路北口に差し掛かった頃、前に遅い外船がいたので追い抜こうと速力を上げた。その瞬間VHFで本船を英語で呼び出しはじめ、三級船長が受話器をとった。
Where are you going?
・応答しない。
We are increasing our speed now. Please do not overtake us.(はっきり2度同じことを言われた)
・返答しない。
本船の船長は「ちょっと何言うてるんかわからん」と受話器を置いた。(おまえはサンドイッチマンか?)
なんか言うてるから抜かないでおこうか。と、Slow downした。勘は鋭い。
この他、内航船に乗れば、
”英語で呼び出されて、VHFに出ない” という船がいかに多いかよくわかる。VHFに出たなと思ったら相手船がなにを言おうが「port to port 、port to port」などと一方的連呼に終始する者などもいる。いずれにせよちょっとひどい。

これらの背景には国家試験システムの改悪があるように思う。
船員資格に関する国際条約(STCW条約)が1978年に規定され、日本も1983年船舶職員法が改正された。船員の訓練・資格・当直基準などについて定められたものだが、免状の部分で大きく変わったのが、甲乙丙種と8つに区分されていたものを、1〜6級の6種に変更した。甲種二等航海士と乙種船長を統合し三級海技士(航海)、乙種二等航海士と丙種船長を統合し五級海技士(航海)とした。
この際、乙種船長免状には英語が受験科目となっていなかったので、三級に限り英語の移行講習修了を条件に更新しました。ここまでは妥当な話なのだが、この移行期間が終わっていつの頃からか知らないが、三級(航海)から英語科目を無くし、英語講習を義務付けしてこれにかわるものとした。二級・一級にこの制度はない。
また、航海当直に必須となったVHF免許の一海特、二海特の国家試験に英語科目はあるものの、これは免許自体が講習によって取得できる。さらに、この上位免許である三海通にあっても一海特をもって3年従事した経歴+三級以上の免状があれば認定講習53時間(うち英語は23時間)を受けるだけでもらえる。
要するに、三級の船長は講習だけで全ての英語の試験をクリアーできるようになっているのだ。
国家試験やTOEIC、英検ならば対策を考え、必死に勉強する。しかし、20時間やそこらの講習で身に着くものはたかだか知れている。上記のような事例が多発して然るべきだと、私は思う。ほんと危ない。

三級は外航(遠洋区域)で二等航海士までできるが、一方、5000t未満の近海区域、限定近海及び沿海区域では5000以上の船で船長ができる。それらの船になると端っこによっておとなしーく航海することができないので外船(こちらも得てして大きい)から英語でVHFされる機会も多いし、当然近海を走れば英語を使わざるを得ない。船長が話せないでは済まない。

出来る限り早く三級の国家試験に英語科目を復活させる。または、TOEICの点数や英検での免除規定に変える。などとした方が良いように私は思います。「そしたら受からないやつが増えるじゃないか!」と言われる? 四級においても 5000t未満限定近海&沿海区域以下で船長ができます。
英語は得意だけど、運用科目が不得意という方にも、運用述の講習をして免状をやるのか?という話です。国家試験はトータル的な一定の水準(最低限の知識)が必要で、誰にも公平でなければならない。
また、国家試験は個人の知識・能力を推し量る術であるので、三級を持っていればこの程度以上だろうということが推測できる。まあ、それでも足らないから大手では、さらにTOEICで実力を更に測っているのだろうが、今は三級の英語力を測る術がほとんどない。(口述試験で少々あるのか?)
TOEICスコアが全てのように言うのもどうかと思うが、とはいえ、小学生の授業でも英語が必須科目となろうとしている昨今、国家試験が時代に逆行するようなことをしてどうするのかなあ? とういうか現状はSTCW条約の趣旨に完全に反していますね。有名無実とはよくいったものだ。
大手内航長距離フェリー会社では、資格としては本来三級で船長が出来るのだが、社の規定として一級取得者でないと船長をさせないと聞く。上記したような意味でも、改めて納得せざるを得ないと思う。

*昭和58年の乙長&甲二の免状統合の際、乙長は限定なく遠洋区域の航海士の資格ができ、甲二は内航船で限定なく船長ができるようになった。このときには甲二の方がだいぶ得をしたなあという感が強かった。乙長の人がわざわざ今更二航で外航に乗って二級・一級と取得していくのは非現実的だったが、甲二の人間は内航に方向転換できるようになったからだ。
しかし、上位(英語があるという意味)試験に合わせていくのではなく、まさか三級の国家試験から英語を無くすとは、このとき夢にも思わなった。


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