Deck Strength
4. 在来船の甲板強度
(重量物を積載する)

われら海族 Index


重量物船の経験が2-3年程度か、主に鋼材などを運び、100t程度ぐらいまでの重量物しか扱ったことのない航海士がよく間違うことがある。
ユニフォームロード(等分布荷重)は、甲板の1平米当たり何トンまで耐えられるか? と、いう概念である。
1000m2の甲板個所で、U/Lが4.0t/m2の場合には、重量の強度的にそこに4000tまで積載できるというものだ。この場合もちろん容積は考慮していない。
U/Lはハッチカバー、中甲板、タンクトップにそれぞれ設定されてあって、青図のMidship Sectionに書いてある。これも
貨物積載には重要な要素であることは間違いないのだが・・・。

「重量物のSkid(脚)は、縦50cm x 横200cmが2本なので、
面積は 1m2 x 2本 =2m2 です。
2m2 x U/L 4.0t/m2 = 8t
までしかデッキ強度は無理じゃないか? この貨物は30t ある。」
これが、3rdか、2ndの質問ならいいのだが、チーフがこんなことを平気で言う。

LNGやタンカーなどは相当それなりの訓練、講習などを受けないと乗せないらしいが、在来船や重量物船はこの程度で若いチーフが威張っている。LNGに乗って来たから、「在来船ぐらい」と高を括って来ているのだろうが、昔からタンカー乗りと、カーゴボート(在来船)乗りは全く異なると言われてきた。船乗りが、タンカー乗り、カーゴ乗り、漁船乗りの3つに大別されると言われるのも、その所以の一つだ。
とはいえ、在来船で必要な知識の量はたかが知れている。漁船に乗るほどの経験もいらない。

なのに、大手の方はプライドが高いので、子会社の人間について見習いをするなどもさせないし、本人も訊いてくれません。だからせっかく出向できても、根幹を知らぬままに本社へ帰っていく人がほとんどで、とても残念でした。
知らぬともポートキャプテンなどはソフトだけで仕事はこなせるし、運が良ければ事故は起こらない。(知っていても、ちゃんとやらなければ事故は起こるが) でも、危ないから少々書きます。このHPに書かれている5シリーズを齧ればそれなりに恰好がつくので安心してください。

兎に角、
重量物は・・・・・・・・・で積まない。
重量物船では、各甲板の局部集中荷重の計算を行う。かといって、我々商船学校出は造船工学を少々かじった程度で、詳細に学んできたわけではないし、船舶設計ができるほどの頭もない。だから、計算は難しくない。学生の時、喜多爺の材料力学で習いました。

私が前いた会社ではこの計算を行わないやつがちょくちょくおって、貨物ごと中甲板を落とす事故を起こしていたのでご注意ください。

1.中甲板(ツインデッキ)の強度
局部荷重を計算しないと、重量物を中甲板に積載することはできない。
 
1)部材の寸法から求める方法
チーフが重量物船に乗ると、まずなにをするか? ハッチカバーと、中甲板の裏側を見に行くかもしれませんね。ここの部材強度はそれぐらい大切です。これを見ただけでその後の苦労が予想できます。

計算は、それぞれオレンジとグリーンの部分の
@断面二次モーメントI から断面係数Zを計算する。
断面二次モーメントI
オレンジ:・・・・・cm4
グリーン:・・・・・cm4
断面係数Z
オレンジ:・・・・・cm3
グリーン:・・・・・cm3

A軟鋼の降伏応力=2400kg/mm2(安全率2として)、許容応力1200kg/mm2から曲げモーメントを求める。
オレンジ:・・・・・(t-m)
グリーン:・・・・・(t-m)
中甲板ポンツン(トランスビーム4本として)

B上記から中央部の1点許容曲げ荷重、許容せん断荷重や、任意点における許容局部荷重などを計算する。

Cポンツンは図のようにこの2セットですから、2掛ければポンツンの・・・・・・・



2)ユニフォームロードから逆算する方法
中甲板の最小許容(等分布)荷重はNKルールとして、・・・・・H (H:中甲板高さ) とされている。通常はこれの・・・倍近くの強度が確保されているようだ。

uniform load (4t/m2) より、pontoon(15x2.5m) 一枚で受けることができる荷重は・・・・t。この中には4本のトランスビームが入っています。・・・・t/本ということです。
w’=・・・t/15m=・・・t/m
中央部のMax bending moment = ・・・・/ 8 = ・・・・・ / 8 = ・・・・・t-m
これを(1点)集中荷重のMax Bending Moment(t-m)に代入し、逆算します。
70.31t/m=・・・ / 4
P=70.31 x ・・・・ = ・・・・・t
再びトランスビーム4本分(ポンツン全体)に直します。
・・・・・ x ・・・・・ = 75t
と許容荷重Pが求められます。そう、
ポンツン中央部の1点最大曲げ荷重は必ず、・・・・・・・の1/2になります。これで証明できましたから活用する。

これをW ' として15m間の任意の位置にW'が働く場合の計算をすれば良い。端に行けばBendingは強くなりますから重量は上がります。でも、・・・・・も上がるので気をつけて下さい。
端から3.5mの位置での、曲げ・・・・・は104tで、・・・・・・・は98tになります。(・・・・・・・の1/2となりますから、両端の反力の和とと任意点の重量で比較します。)
但し、そのポンツン3.5m付近のトランスビーム4本均等に荷重がかかっていなければならない。
ポンツンの中には何本かのトランスビームが入っていますので、その本数均等に荷重を掛けるよう心がけなければならない。
いや、2本にしかかからないというなら、98t までもたずして損傷するかもしれません。再度計算する。
今のは、ポンツンへの1点集中荷重ですが、2点で、3点で積む場合もそれぞれに別計算しなくてはなりません。

例えば下図のようポンツンに重量を加えるとして、剪断、曲げ許容を算出する。
*Bending moment Max = ・・・・・・・・=281.3t-m
ですから、15m間の任意の位置にP3が働く場合の計算をすれば良い。

反力
RB=・・・・・・・・・・=47t
RA=・・・・・・・・・・=43t


剪断力
         
曲げモーメント
  
* 当然のことだが、部材寸法から求めようが、・・・・・から計算しようが、答えは・・・になる。

3)ポンツンのたわみ量
等分布荷重では

E = ・・・・・係数 (・・・・・kN/cm2)
I = 断面二次モーメント ・・・・・・・・・・= 934,048 cm4
W = 荷重(150t)
L = ポンツンの長さ

δ=・・・・・・・・・・ = 3.4cm

一点集中荷重での公式 (・・・・)
δ= ・・・・

二点集中荷重での公式 (・・・・)
δ= ・・・・



2.タンクトップの強度
@Tank Top のユニフォームロード(等分布荷重)
INNER BOTTOM TOP 〜 UPPER DECKまでの高さに、見かけ比重・・・・・を乗じた値がユニフォームロードとなっている。(・・・は閾値:NK鋼船規則C編・・章・・・・・)
INNER BOTTOM TOP(二重底上部)1.5m
UPPER DECK(SIDE) (Keelからの高さ)15m
ユニフォームロードは ・・・・・・・(t/m2) となる。
Midship Sectionで確認してみて下さい。そうなってるはずですよ。

AL/H Tank Topの局部強度(Solid Floor, Center Girder, Side Girder)
こちらは、曲げやせん断といった応力で測るのではなく、座屈応力を求めます。通常座屈というと、柱を思い浮かべて、ランキンかオイラーかとなりますけど、重量物荷役で用いる場合は、ほぼ・・・・・で事足りる。・・・・・の式を使うことはまずない。ただ、Tank Top強度の・・・・・などの場合は・・・・・・を使用しているので、「せん断応力を受ける座屈」となるそうで、・・・・・ を用いたアップデート・ラグランジュ(Update Lagrange)法を使い、座屈応力と許容荷重を求める。その後、有孔板の減衰係数を乗じて回答を得る。




アップデートグランジュの式(安全率・・・)
 σcr:座屈応力kg/mm2
 E :・・・・・係数(・・・・・ kg/mm2)
 ν:・・・・・(軟鋼・・・・・)
  

インターセクション部
Floorと、Girderが交わる部分は・・・・・で計算するように参考書は講じているが、・・・・・も・・・・・も、インターセクションも「どれもランキンでええやんけ。」と、私などは思う。・・・・・比だの、Kを求める式だの計算行程が多いからだ。(安全率の設定にもよるが、答えは・・・・・の方が小さく出る)
  
ランキンの式(安全率4)
σcr:座屈応力kg/mm2
σu:・・・・・kg/mm2
 L:高さ
 k:・・・・・
 n:・・・・・
:ここでのaは、ランキンの定数(軟鋼材1/7500)。

知り合いに、二重底強度だの、ハッチカバー強度だの、すぐにドックへ電話して計算してもらうポートキャプテンがいた。まあ間違いないだろうが、ほんならあんたの存在意義は?と、問いたくなる。
部材寸法がどうしても手に入らないなら仕方ないが、それぐらい計算ができてのポートキャプテンでないと値打ちがない。というか、営業方からの信頼は失墜する。営業の人間はポートキャプテンの腕を本当によく値踏みしているものだ。



3.ハッチカバーの強度
先に中甲板の強度について述べさてもらったのには訳がある。

左写真の本船は、一応重量物(自力吊で100t)を積載するように作られたことになっている。見て頂けたらわかるように、トランスビームがぎっしり整然と並んでいる。そして、ロンジが縦に入っています。在来船の中甲板ポンツンとして正しい。重量物を積むなら、さらロンジが欲しいところだが贅沢は言えない。これはなんとかできる。




 某重量物船の中甲板裏
これを見て頂きたい。バルクキャリアーのハッチカバーではない。重量物船と銘打つ船のハッチカバーである。
トランスビーム間が4.9m ある。ほんま、「これが重量物船のハッチカバーか?」と言いたくなる。これでこの上に重量物を積めという。ようお、こんな不細工なことしなあと、私は未だに思う。

5本入っているガーダーの細く頼りないこと。計算すると1点集中荷重で中央部21tしかもたない。これも小さく、成ってない。二つのガーダーを跨がせたところで、1Skid 42t しかもたないことになる。端に寄せねばならない。
またガーダーとトランスビームに囲まれた区画は、天板だけに等しく9tしか強度がない。重量物船を知らない者が作るとこうなる典型です。私が驚くのは、このシリーズ船だけがこういう構造なのではなく、ほぼ全てのシリーズ船でこうなってるところだ。どっかでええかげん気付くもんだがなあ。
餅は餅屋ということを知らなかったのかなあ。聞けよ。

某重量物船のハッチカバー裏


          hiding



ハッチカバー上に重量物を積載する場合も、中甲板と同じく、構造部材の寸法から局部荷重を計算して強度を保つのですが、こんなことになっていたら当然、等分布荷重からそれを求める(上記、1.中甲板(2)で述べたやり方)などは絶対にやってはならない。場所、場所で強度が・・・・・











1個や2個ならそれも可能ですけど、ondeckするときは、写真のように満載することも稀ではない。
当然のように梁がない上にも重量物のSkid(脚)が来てしまう。

どのようにトランスビームを活用できるか、強度とにらめっこで悩みます。

そのトランスビームも、全部均一の強度に作ってない。コンテナ積みのコーン部分だけちょっと強く作ってある。要するにこれを作った人は、コンテナのデッキ積み以外想定してないってことなんです。

ondeck満載1 ondeck満載2


            hiding




これでは技術でなんとかしろと言われても、はなから無理がある。

そして、どうしょうもないとこは、こうなる。
貨物の脚の下にH-beamを敷きつめています。ハッチカバー内のトランスビーム間をこれで橋渡しさせています。こんなことする重量物船はめったにありません。うちは頻繁にやらねばならないけどなあ。下敷きHbeamの荷重分散は、通常座屈で計算するが、このように使用する場合は、曲げとせん断も必要なので注意!

あのね、このHbeamは1本・・・・・kg くらいあります。これ上げて並べて、何本も何本もやるんですよ。人間の手で。ほんまにこんな不細工なハッチカバー作った方を恨みますね。
一遍来てやってもらったらわかると思う。重量物船に、二度とこんなハッチカバーを設備しないのではないだろうか。
Skidの下にH-beamを備え荷重分散している。
もうひとつ、不細工ハッチカバーに対処する方法があります。

写真は、Skidの外、ハッチカバーの梁に間に合わせて、・・・・・・・・











荷重分散(burdenshare)2

*ondeck積載時には、SOLAS条約・・・章・・・規則により、船橋視界として「・・・・・・・・・・の小さい方」が最小値として要求されます。(バラスト交換時は1Lまで)



4.荷重分散用 H-beam強度の計算

荷重分散用のH-beamはその扱いやすさ(重量)と強度から20cmH-beamを使用することが多い。
サイズ@・・cm x ・・cm, A・・cm x ・・cm, B・・cm x ・・4cm
として、断面係数は461M3で、軟鋼として許容曲げモーメントは
・・・・t-mとなる。かかるTransbeam間を3mとすると、
許容曲げ最大1点荷重は・・・ x ・・m=・・t、許容せん断荷重は、・・ x ・・・ x ・・・ = ・・・t となる。


座屈は理論上必要ないとも言えるが、証明しておく。
貨物スキッドが乗る部分をb x tが50cm x 0.8cmとした場合、
I=8333cm4
k=・・・・
端末係数=・・
細長比= λ/k=・・
軟鋼の圧縮強さδc=・・・・kg/cm2
a=・・・・
に数字を代入しても、座屈荷重は・・・t程度となって、安全率を4すれば、座屈荷重W=・・・・t 座屈応力・・・tとなる。よって曲げより劣ることはなく考慮の必要はない。

参考:Skid にかかる重量



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