実用船舶載貨計算法
Condition計算

われら海族
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航海士の最も重要な仕事は荷役当直です。
航海士は荷役中、事故を防ぐ為の作業環境に注意するばかりではなく、荷物を揚げ積みすることにより、生ずる船の状態変化(トリムの維持、GM確保、船体にかかる応力の軽減等)を計算把握し、その都度調整しなければなりません。「満載喫水線まで積んだら出港しましょう」などのドンブリ勘定では、命がいくつあっても足らなくなります。

その仕事の中の一つに表題の Condition 計算というものがあります。

これは荷役時(特にドラフトカーゴ:小麦などのバルク)における航海士としての必須事項です。
バルク貨物を積み降ろしする場合には陸の計測器でその量を計測するのが常です(発展途上国に行くとドラフトで積む場合もある)が、航海士は正しく計測が行われているかどうかを、本船のドラフト(喫水)によって計算しチェックします。

例えば、積地で1万トン積んだ小麦が、揚地の計測で9500トンしか無かったとなると、これは大問題に発展するからです。陸がいう計測器の結果を鵜呑みにすると痛い目に会います。(一等航海士の下船は免れません。)

それではその計算方法を記します。

垂線間長(Lpp) 177m の船舶。アルゼンチンで 29,400t の積荷をして、日本サイドで揚荷をしています。初日の揚げ数量を求める場合です。


Condition計算例

@オモテ、ミッドシップ、トモの両弦、計6ヶ所のドラフトを読み、App Mean を計算します。
(いわゆるホグ・サグ修正をこれで行う)
  Fore(オモテ)  Aft(トモ)  M/S(ミッドシップ)
Port(左舷) 8m-07cm 9m-63cm 9m-03cm
Starboard(右舷) 8m-01cm 9m-47cm 8m-68cm
Average 8m-04cm 9m-55cm 8m-85.5cm
  App M   (+)1m-51cm  
  (船尾トリムは(+)、船首トリムは(−)  
       

AApp M より Draft Condition Table を用いて、修正値を求め Ave. Draft に加減します。

8m-04cm 9m-55cm 修正前
Fore   (-) 0.83cm Aft   (+) 9.06cm 読み取った修正値
船尾トリムなのでFは(-)、Aは(+)です。  
8m-03.17cm 9m-64.06cm 修正後
Trim (+)1m-60.89cm  
     

喫水標取付位置は船首材(Stem)または舵柱(Rudder post)より内側にあって、垂線間長LPPと一致しない。この修正をStem correctionという。


これは計算によっても求めることができます。
Δ修正値= App.Trim x (喫水標からStemまたはPostまでの距離 / 喫水標間)
ΔF= 1.51m x (0.9m / 166.1m) = 0.0082m (0.82cm)
ΔA= 1.51m x (10.0m / 166.1m) = 0.0909m (9.09cm)

BQ/M (クォターミ―ン) Draft を求めます。

Q/M = F + A + Mp(ミッドシップ左舷)x3 + Ms(ミッドシップ右舷)x3 / 8
 
Q/M = 803.17 + 964.06 + 903x3 + 868x3 / 8 = 885.02 = 8m-85.0287cm
 

CQ/M 8m-85cm により、Hydrostatic Table を用い以下を求め、 8m-85.0287cmに対する排水量に補正する。

DISPLACEMENT (排水量) TPC (毎cm排水トン数) M/S F (浮面心)
35,904 ton 44.43 ton/cm -1.43 m
  (船を平均喫水で1cm沈めるのに必要なトン数) (-は船の中央より前方、+は後方)
35,904 + (44.43 x 0.0287) = 35,905.27 ton
     

D 排水量修正1 
Table は Even keel (等喫水)で計算されているため、Trim がある場合には、それを修正しなければならない。

1st trim correction = Trim x M/S F x TPC x 100 / Lpp
1st trim correction = (+)1.6089 x (-)1.43 x 44.43 x 100 / 177 = (-)57.75
35,905.27 + (-)57.75 = 35,847.52 ton
 

E排水量修正2
 これは必ず (+) で修正します。

2nd trim correction = (Trim)2 x (±50MTC) x 50 / Lpp
 
Hydrostatic Table によると
Q/M 8m-85cm に 50cm を(+)したもの 9m-35cm に対する MTC は 524.59 ton であり
Q/M 8m-85cm に 50cm を(-)したもの 8m-35cm に対する MTC は 495.95 ton だったとすると、
±50MTC = 524.59 - 495.95 = 28.64 ton
2nd trim correction = (1.6089)2 x 28.64 50 / 177 = 20.94
35,847.52 + 20.94 = 35,868.46 ton
※ MTC(毎cmトリムモーメント): 船を 1cm トリムさせるのに必要なモーメント
 

F海水比重に対する排水量の修正
真の排水量を求める。(Table の排水量は平均海水比重であるから)

S.G.Correction = Displacement x ρ(その地の海水比重) / 1.025(平均海水比重)
= 35,868.46 x 1.023 / 1.025 = 35,798.47 ton
 

G本船の持ち物の合計を計算する。

Light Weight 7,492.00 t  船だけの重量
Fuel Oil  310.67 t  3/E に訊く
Diesel Oil 73.67 t  同上
Fresh Water 234.00 t  クォーターマスター が計って荷役事務室に書いている
Ballast 3,018.00 t  同上 (比重修正必要)
Constant 250.00 t  不明重量(C/O に確認しておく。又は、空船時計算する)
Total 11,378.34 t  
     

H本日の揚げ数量を求める。

今、積んでいる貨物の量 = 35,798.47 - 11,378.34 = 24,420.13 t
積荷の総重量は 29,400t であるから、
本日の揚げ数量 = 29,400 - 24,420 = 4,980 t
 

学校を卒業し、晴れて初乗船。作業服に着替えて一等航海士の元に走る。
軽く挨拶を済ませた後、一等航海士が口をつく最初の言葉は
「サードッサー。足を見て、Condirion を計算してくれるかな。」
です。
サードッサーと初めて呼ばれた快感に浸る猶予は与えてもらえません。次の瞬間、頭の中は真っ白になってしまいます。
四苦八苦しながら、なんとか6ヶ所のドラフトだけは計測し荷役事務所に帰っきますが、そのドラフトを見つめながら恐縮し固まっているのが、初乗船してきた三等航海士往々にしての常だと言えます。
排水量、TPC、MTC、比重、修正、全ての意味は知っている。しかし、つながらない。要するに答えを導く順序がわからないのです。
訓練所では航海に関することしか教えてくれません(これもまともには教えていないのだが・・・)ので仕方ないことです。一等航海士にしてもそれは心得ています。だからこそ、何食わぬ顔でやらすのです。三等航海士の鼻っ柱をヘシ折ってやろうというのではありません。試験というところでしょう。(まあ、「かまし」ているところも無きにしも有らずですが)。
三等航海士がどのように質問してくるか、どこまで知っているか。三等航海士の知識と能力、性格や態度を見抜くには最適なやり方なのかもしれません。

ここに記した計算は実践的な方法です。あまり本には書いていません。船乗りをめざす方々の参考になれば幸いです。

それから、計算上、最も重要なことは正確にドラフトを計測するということです。初めてドラフトを見て計算されますと、一等航海士がドラフトを見て計算された結果と、大きく異なります。その時には、「どうせ、一等航海士のドラフトが間違っているんだろう」と思わないで下さいね。(笑)そんなことは万に一つもありません。ドラフトの目盛りは波にさらされているばかりではなく、見る角度、影、水の透明度などの影響を受ける為、計測には熟練が必要です。           

 

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