貨物事故Cargo damageとサーベイ

われら海族 Index


 
航海中に起こったDamageについて、荷主は原則的にこれらに対する損害の担保を保険会社に委ねます。そして、保険会社はのちに運送人の責任部分について保険代位してくる。というのが流れになる。
そこで、船側の一航士は責任逃れにためにリマークがついたBoat Noteへのサインを拒んだり、「本船の見る限りダメージではない」など侃々諤々揉めて、挙句に
「Receipt only」、「No Responsibility for ship side」
「It's before shipment damage」
「We don't acknowlege and agree this certificate.」
「Contents unkown」
などと書きたがります。

でも、ボートノートのリマークは船会社に滅失・損害を直接的に担保させるものではない。ほとんどの場合は荷主がかける海上保険に求償するために、現状を確認するものなので、こんな文言は法律上なんの意味もありません。
実のところ、責任逃れなどする必要がない。法律や海上運送契約で,運送人の免責事由や責任制限が定められているため,船社が貨物の損害に対しての責任を負う過失割合は非常に少なく、着荷不足を除いて運送人に損害賠償の全額請求をすることなどは事実上不可能と考えられます。ただし、事故があれば荷主の運送人に対する信用問題は大きな尾を引くことを忘れてはならない。
なので、起こってしまった事故について、本来船側は荷主がスムースに保険求償できるようできる限り協力するというスタンスにならなければならない。
荷主に保険金が支払われるためには下記の要件に該当する必要があります。(保険屋の免責)CIF はSHIPPER側、FOB や C&F はCONSIGNEE側で大抵の場合かけてある。
A/R ( ALL RISKS:全危険担保) は一般的でほとんど全ての損害において担保されるが、 F.P.A.( FREE FROM PARTICULER AVERAGE:分損不担保)は、荒天の全損とならない一部水濡れなどの単独海損に適用されないこともあるので注意を要さなければならない。
@保険期間内の事故であること。
海上貨物保険における保険会社のてん補責任の始終について、原則として「貨物が積出地の倉庫その他の保管場所において、輸送の目的をもって初めて動かされたときから、通常の輸送過程にある間継続し、仕向地の倉庫その他の保管場所で荷卸しが完了したときまで」となっています。
A偶然で外来性があること。
貨物の積荷、荷卸中の落下による全損等
B免責の損害ではないこと。
例えば、
・結露の原因になりやすい貨物の性質上において水分を多く含んでいる場合(貨物の固有の性質による)、航路季節的要因に帰する結露の発生が不可避な場合、梱包材やパレットの水分含有量が過多の場合などに起因する結露損害は免責。
・梱包の不良による損害、積み付け不良による荷動きや荷崩れが原因の場合、過積載による下段の貨物のつぶれなどが免責。
免責が明らかとされるものに対しては意味が無いので、それにサーベイを入れるなどは滑稽です。したがって、荷主はまず保険会社とよく相談することが肝要である。

Bote Noteリマークの正しい考え方
揚げ地で貨物損傷/荷崩れが発見された場合、リマークをいくら拒んでも、荷主は引き渡しを受けた貨物の損害を発見後3日以内に船会社に通知(Claim Notice)をすれば、足りるとすることは、国際海上物品運送法第12条(Hague Visby Rule 第3条6)に規定されているし、船会社はこの損害に関する立会義務(リマーク承認)も、同条において拒めないことになっている。(このことを知らない船長も意外に多く、「リマークを入れても良いが本船に責任がないことを追記せよ」などとと脅迫する船長は考えものであると言って過言ではない。)

荷主は、損害通知「Claim Notice」を運送人宛に書面で通知後、保険会社には以下を提出します。
@船会社宛のClaim Nortice (Bote Note にリマークが無い場合は特に必要)
A船会社からの免責証明 Rejection Letter (Sea protest 、P&I Surveyor Report等)
BBote Note
CInvoice
DB/L コピー
ELanding Report 類
FSurveyor Report
(ちなみに出訴起源は引き渡しより1年)
保険会社は、これを受け荷主に補償する。その一方、荷主から代位請求権(Subrogation)を取得し、運送人への責任追及を行う。というのが一連の流れだが・・・。
ではなぜ、ダメージについて運送人(船会社)になかなか担保してもらえないのかと言うと、これも単に法律でそうなっているからに他ならない。
運送人は国際海上物品運送法第5条(Hague Visby Rule 第4条1)で規定される発航前の堪航性確保や注意を怠たらなかったことを証明することによって、国際海上物品運送法第3条(Hague Visby Rule 第4条2)に広範囲の免責が与えられている。これは実質、運送人に対し、航海上の貨物の滅失・損害に関しほとんど責任がないと言っているようなものです。
船荷証券統一条約(ヘーグルールおよび改正議定書)でも、
・運送人は商業過失および堪航担保義務(航海中における通常の海上危険に堪航性・堪貨能力を備えた船舶を提供することのみ責任を負う。
・航海過失(航行または船舶の取り扱いに対する船長、船員、水先人または運送人の使用人の行為、怠慢、または過失)をも免責としている。
・故意、過失によらない船舶火災による損害は免責
・天災、戦争、内乱、ストライキ等の不可抗力は免責
・梱包の不備等による貨物損害についても免責
となっています。
とはいえ、海上運送人の責任の範囲
(過失割合)が全くないというのも保険清算上稀ですから、これも承知しておいて頂きたい。

Cargo Indemnityは基本的に船主だが、用船者としても立てる必要があるか検討が必要。
(ハッチカバーの漏水など堪航性に関する貨物損害に対しては船主責任で、運航者の過失割合はゼロとなるが、積付け不良や、原因が明らかにできない場合などは運航者にも責任配分される)
船主でP&I保険会社、用船者で
CLI保険(チャータラーズライアビリティ&インシュランス:用船者賠償責任保険)会社が係る損害費用の責任(運送人としての過失度)査定を行い(ボートノートに一航士のサインがあるなしは関係ない)、荷主の貨物保険会社の保険代位の折衝に当たることになっていますが、船会社が「不可抗力あるいは航海過失による貨物損傷であるもの」との主張をしても、過去の事例を参考に双方の折り合いをつけますから、満額免責(過失割合0)になることは稀(風力9-10などの場合を除いて)です。(交通事故と同じですね。過失割合「10 : 0」はほぼない。) 賠償金はP&IまたはCLI保険で支払われ、その免責額(自己負担分は払わねばならない)は事象により異なる。
・仮に船会社の商業過失が認められ、運送人が有責となったとしても、その運送品に対する責任限度額は1包装または1単位当たり極めて低い「666.67SDR=約8万円、あるいはキロあたり2SDRのいずれか高いほう」となっているし、単価の安い原材料等バルクカーゴでは実質的に責任制限額の適用を受けるまでいかないので、やはり荷主は損害の大部分を貨物保険でカバーすることになります。
(SDRは変動制で2017年は1SDR=155.9円)

サーベイヤー手配
貨物保険適用の場合には、鑑定人として専門の海事検査人(サーベイヤー)を起用するのが原則です。損害状況(免責有無含む)、原因調査、立証が必要だからです。特に運送人への求償が必要な場合には必須となります。実務的には保険会社が直接サーベイヤー会社に派遣を依頼するのが一般的となっています。
一方運送人は、積荷に異常が認められクレームがついた場合には、本船側はPI保険(クラブ)の現地代理店に連絡をとってサーベイヤーを手配します。傭船者の立場ではCLI保険会社に連絡をとり、こちらも保険会社からサーベイヤーが手配される。これらは免責証明および過失割合査定に唯一大きな意味があるので、荷主が手配したサーベイヤーに向こうを張る悪意の対抗措置ではない。
また逆に、保険求償するつもりがない、または免責、保険条件外などで求償できないのにもかかわらず、船会社への責任追及のためのみに荷主がサーベイヤーを安易に手配するのは、今後の良好な関係ためにもあまり勧められた行為ではないと考えられます。(PIによって船社の免責証明がなされれば、お互い金をかけ何のメリットがあったかということになる)

上記から、サーベイヤーが乗船してきた場合、敵対視する必要はなにもないが、事故とどのような関係の者か、立場はどうか、目的は何か、を把握する必要がある。協力はして然るべきところ、損害が確定する前に責任回避や安易な概算額の過少申告はやめましょう。
サーベイヤーが揃える書類
@Log book copy
AStability Calculation
BSea Protest
CStowage Plan
DPort of Call
ECrew List
FShips Particular
GWeather Charts
HPassage Plan
IStatement fact(Shippers Surveyorに強要される必要はない)
サーべイヤーが訪船すると連絡があった場合、あらかじめ乗組員は事前に上記を用意しておいてやれば話はスムーズに進む。

こぼれ話;
なんでもかんでも(通関に要する記述は別)ボートノートにリマークを入れたがる元請の貴兄にも筆者は警鐘を鳴らしたい。航海上なんの関係もないと考えられる品物の傷(当然、貨物保険で免責のもの)など「荷揚げ後保管中についたダメージでないことを荷主に知らしめるため」にと、元請の自己防衛的な既得権の如くボートノートリマークを利用する向きもあるが、それに付き合わされる船員はたまったものではない。荷主にはあらかじめ電話で申し出れば事足りる。それでも言った、言わない、など後々心配だと思うなら、今の時代写真を撮ってメールすることを薦める。

 管理人著書