岸壁強度と係留力

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大型船の接岸速度は一般的に5〜10cm/sが妥当とされている(気象・海象条件を考慮しない)が、これは岸壁のFender性能(ゴムの弾性、防衝機能)にも大きく影響される。
小型船舶などでは岸壁にそのような防護材が設置されていないところに接岸する場合もかなりあるため、惰性で接近することは避け、岸壁手前で船を完全に停止させる(つもり)ように操船することが肝要である。

 
   
接岸速度の計算  
冒頭に少々述べましたが、許容接岸スピードは岸壁強度による。その計算の基礎は、
Ef = W x V2/2 x Ce x Cm x Cs x Cc
Ef: 接岸エネルギー(kNm)  港湾局から提示される値。
通常は岸壁設計条件(97kN-mの90%=87.3kNm)
W : 排水量(mt)
V : 接岸速度(m/s)
Ce: 偏心係数 Ce=1/1+(l/r)2 
Cm: 仮想質量係数 Cm=1+π/2Cb x d/B
Cs: 柔軟係数(1.0)
Cc: バースの形状係数(1.0)


Cb=W/LppxBxdxρ
l =Lpp/4
r ≒Lpp/4 (偏心半径:進入角度にもよるのだが、近似値で問題ない)

仮に以下の条件だとしますと、
E(接岸エネルギー) 8.826 t-m/s
LPP 122.9 m
Breadth 19.6 m
Draft 5.63 m
Displacement 10974 t

接岸スピードVは13.9cm/s
となります。それ以下のスピードで入港着岸させなければならなない。

MULTIPLE FREEBOARD
左写真は満載喫水線標(Freeboard Mark)が3つある。この写真撮影時では一番下が使用されている。

満載喫水線標の円環に記される線の中心は、夏期満載喫水線が通る。この場合は、10.9mを示していることになる。入港地(特にミルポートの原料バースや製造バース)によっては、「D/W45000トンまで」などと、船の載荷重量トン(満載喫水の排水トン数から軽貨重量を引いたトン数。i.e. 船が最大積載できるトン数)で制限してくるところがある。なんで?

岸壁の強度やタグの馬力、または水深に制限があるのなら
、「Displacement何トンまで」とか、あるいは「Draft何mまで」と言わねば意味がない。上述のように現状のDraftやDisplacementが、接岸エネルギーに作用するのであって証書に書いてあるD/Wが大きかろうが小さかろうが関係ない。何のためにD/Wで制限するのかは謎だが、まあそれはおいとく。

そんなところで、その港に入るために仕方ないから、船級の承認をとって写真のように満載喫水マークを下げる(D/Wを減らす)るのであるが、本来の積載限界はDraft12.8mであるから、そのまま満載喫水線を下げて走ってると大損ぶっこくので、これら制限のない港に入らない場合には、元のFreeboad Mark(写真上部)に書き換えるという具合です。

外地で、入港税、岸壁使用料、Tugなどの基本料金がD/Wになっているとこがなきにしもあらずかもしれない。その際にはD/Wを下げておくと有効でしょうけど。
まあ、MULTIPLE FREEBOARDを設けたりするのは、実質意味がない。



限界係留力を求める
港湾局に岸壁強度の確認を要求された場合には、上記の接岸スピードと限界繋留力を提出することになる。
1)係留策の強度 BL x 55%(安全率)→例:462kN x 55% = 254kN
2)Mooring Winchのブレーキ力 (だいたい220kN)
3)Bit 強度(港湾局から与えられる)例:350kN/Bit 上記のように1Bitから最大2本のラインを取るから、350/2=175kN がBit強度となって、1) 2) 3)の中で、だいたいこれが一番弱いことになる。(1t≒9.8kN)

各繋留索@〜Iの船横方向分力を垂直仰角αと水平交角βから、Cosαsinβで計算し総和をBit強度に乗じれば、1Bit当たりの限界繋留力が求められる。船首尾方向成分は、船横方向成分より小さくなるので計算の要なし。
ですので、岸壁Bit(x個数)の強度(係留力)が風圧力より強ければ、係留が成り立つ。

風圧力T (t)= 1/2 ρa・Ca (Acos2 θ + Bsin2 θ) Va2
ρa: 空気密度(0.125 s・sec2 /m4 )
Ca: 風圧係数1.2(船首方向からの風向角により変動し、実験値では船種により多少異なる。)
A: 船体正面受風面積(m2) B: 船体側面受風面積(m2)
θ: 船首方向を基準にした風向角(度)
Va: 相対風速(m/sec)

上式と、限界係留力から限界風速を計算しておくといいですね。だいたい20m/sくらいになりませんか?

着岸したまま台風に対応する際、ホーサーの増し取りで安心している船長もいますが、同じBitから何本もとれば、ホーサーの強度よりBit強度が先にきます。Bitがもたなければ元も子もありませんね。お気をつけ下さい。

大残念!2019
さすがに5大港では、商船出の人間が多く、岸壁強度限界船の入港の際にはちゃんとDisplacementで判断してくれているようだが、未だそうでない港も多い。

つい先日また残念なことがあった。ある五大港近郊のS港でのこと。岸壁公称能力を基本30,000D/Wとして、それ以上D/W47,000t 迄は、都度必要項目(D/W、G/W、LOA、B、D、Draft、積載貨物名、積載数量)を記載し申請書を提出する。これをもとに港湾局が計算するという。
あれ、Light Weightや持ち物は出さなくて良いのか(これだけではDisplacementを算出できない)と、一瞬頭をかすめたが・・・。30,000t〜47,000tまで幅をもたせているということは、当然 Displacementで可否を考慮しているものと思っていた。

そんな折、船社から、「50,000tD/Wの船を入れたいのだが」と、聞かれた。
入港時の貨物量は、20,000t くらいになる予定だという。勿論、揚荷である。
「それなら大丈夫でしょう。」と、軽い気持ちで引き受けて申請した。
しかし、港湾局は、頭ごなしにD/W47,000t 以上なのでだめだという。
「いやいや、Displacementは十分小さくできますよ。」
Displacementは何tまで大丈夫なのですか? それまでに抑えて来ますから。
Bit強度もこちらで計算して提出しますので、検討願えませんでしょうか?としたが、今度は、なんか偉いさんが出てきて、
「計算なんかしてもらわんで良い。Bit許容強度も岸壁強度も教えられない。うちはD/W47,000tで昔からやってるから。」
と仰り、あくまでも拒絶された。
本ページ上述のようにバルク船には往々にしてデュアル、トリプルのロードラインマークがあって、D/W証書などはいくらでも書き換えることができます。ただし、接岸エネルギーを計算する上において、そんなものにまったく意味はない。

 運動量= 質量 x 速度
運動量の単位は[kg・m/s]となります。運動量に速度変化を加えて運動エネルギーを考えます。
 運動エネルギー=1/2 x 質量 x 速度2
運動エネルギーは別の物体に衝突して仕事をすることが出来る力(エネルギー)ですので、接岸可否の決定にはこちらを使って計算するのですが、まあ、いずれにしても、そのものの質量を知ることが不可欠ですねえ。では、船でいう質量とはなんでしょう?
Dead Weight ですか? (港湾関係の人はこれだとか勘違いしている方が多いようだ)
Dead Weightは、日本語で載貨重量トンという。満載喫水線まで積載できる貨物の最大量を示している。実際に今積んでいる量がそれかというと、必ずしもそうではない。
Dead Weight 50,000tだとしますと、バラスト、燃料、資材、水、コンスタント等を引かねばなりませんから、実質量は48900tくらい(仮)になるでしょうか。(S/Fは考慮しない。)
(契約上少しでも多く積みたい場合は、運航者から、燃料補給を揚げ地にするとか、水を100t 捨てろとかの指示がでたりします。)
だが、船の質量(重量)はこれだけで決まりません。
船自体の重さがあります。D/W 50,000t くらいのBulk Carrierですので、Light weight(自重)は仮に10,000tにしましょう。
満載時の総重量=48,900+100+750+50+150+50+10,000=60,000t
となります。これがDisplacement(排水量)で、運動エネルギー計算の基本要素の一つです。決してそれにDead Weightを用いてはなりません。

まだピンとこない人のために。
@D/W 50,000t の船に満載した場合のDisplacement を上記したが、同じConditionで、これに20,000tしか貨物を積載していないときのDisplacementは、
 20,000 + 100 + 750 + 50 +150+10,000=31,050t
AD/W 30,000の船に満載したときのDisplacementは、
 30,000(燃料、水等含む)+ 8500=38,500t
どうでしょう。どちらが重いですか?

D/W30,000tまでの岸壁なので、単にD/W50,000t だからという理由だけで入港を拒絶した? それでは船社を納得させる理由になりません。
この場合、Aの D/W30,000t のDisplacementの方が,かなり重いということがわかって頂けたと思う。ですので、岸壁のリミットを設定する場合は、Displacement 38,500t 迄などとして、船社に入港調整をあずけるべきでなのです。
ちなみに、D/W 47,000の船に満載したときのDisplacementは、
 47,000(燃料、水等含む) + Light weight (仮)9500 = 57,550t
となる。ここまで大丈夫な岸壁なら@の条件でへっちゃらだろうことは言うまでもないです。

ただしだ、D/Wの大きな船は深さがあるので、軽貨で入港すると乾舷が高くなり、船体側面受風面積
(Projected area of Side)が大きくなって、風圧力が増しBit への負担が大きくなるので、船社か、フォアマンには接岸エネルギー計算の他、限界風速の計算書等も提出させるのは当然の要求と考えられる。
片意地張って、Bit強度を聞かれても答えない港湾局などはいかがなものかと私は思う。それでは、そのBit から、ホーサーを何本とれるのか船員は計算できないではないか。
港湾局もサービス業です。船を入れたら入港料も、岸壁使用料も入ります。いかに船を入れれるかを考えないで、相談や意見を攻撃とみなして敵視することは発展的ではありません。
この港湾局さんは、おなじ件でこれから何度も船社と揉めるのだろうなあ。私はほんとうに悲しく思う。

上記証明計算例
(PDF)
・接岸エネルギー
・限界係留力



作者著書